第7話
私の声が聞こえたのか、顔を上げてニコッと目を細める運転手さん。
「今日も1日頑張ってね」
返ってきたのはやっぱり一言。
励ましの言葉だった。
ありがとう。と返されたり、足元に気を付けてね。だったり、返ってくる言葉の種類は様々。
だけど、本当に真面目な定例文みたいなものばかり。
しかも一言を貰えるのは私だけじゃない。
バスから降りてドアの向こう、彼は他の降りる人にも似たような言葉を返している。
毎朝、声を掛けているのにその場限りの人と対応が全く同じ。
全然相手にされてなくて、ちょっと悲しい。
それに私より年齢が結構上そうだし、多分結婚もしているんじゃないかなと思う。
1度だけ、それっぽい人に声を掛けられていつもより優しい顔をしてた。
奥さんが羨ましい。
「普通の運転手さんじゃん」
「私に取っては王子様なの〜」
「彼に取って自分が乗客Aみたいな存在でも?」
「それでも好き」
「やっぱり分かんない」
バスが去っていき、みっちゃんに呆れた顔をされる。
そう。
自分でも分かってるよ。
不毛な恋だって。
この先も彼と私の世界はバスの中以外で交わることは無いんだろう。
そのうち記憶の片隅に甘く溶けて消えていく。
これは完全なる私の片思い。
でも、いいの。
それでも私の1日は今日も輝いている。
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