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「それと、翠々さんにマンションから出て行くようにおっしゃっていましたが、このまま住まわせてもらえませんか?」


 愛想笑いをしていた叔母の目元がヒクヒクとわかりやすく引きつった。

 私をさげすみ、嫌がらせのように追い出そうとしたことが琉輝さんにバレていると気づいたらしい。


「もちろん! 翠々は私の姪ですもの。だけど結婚したらふたりで新居に移るんでしょう?」


 私に金輪際縁を切ると言ったのは大言壮語たいげんそうごだったのだろうか。

 それよりも、結婚というワードが出たので目を丸くして叔母を見た。

 つい最近交際し始めたと琉輝さんが最初に説明したはずなのに、どうしてそういう思考に至るのかとあきれてしまう。


「叔母さん、結婚は……」

「あら、しないの?」

「僕はいずれしたいと考えています。しかし翠々さんは社会人になったばかりなので、折を見て」


 琉輝さんの力強い言葉に、私だけでなく叔母までうっとりとしていた。

 なんだか間接的にプロポーズされたような気持ちになって、私の顔にどんどん熱が集まってくる。

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