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「翠々さんとは留学中に知り合って、つい最近なんですが正式に交際することになりましたので、一度ご挨拶しておきたくて参りました」


 彼が「お口に合うといいのですが」とスマートに焼き菓子の手土産を渡すと、叔母はうれしそうにそれを受け取った。


「むさ苦しい家ですけど中でお話しましょう。どうぞどうぞ」


 やっと玄関扉を開けてくれた叔母は、上品な奥様を気取って声を上ずらせている。

 こうなる予想はついていたので彼にも事前に伝えていたものの、隣にいる琉輝さんに「すみません」と小声で謝った。

 彼は大丈夫だと言わんばかりに私の背中をやさしく擦ってくれる。


「翠々、あなたの好きな人って鳴宮さんだったのね。早く言いなさいよ。そしたらお見合いを勧めたりしなかったわ」


 来客用の応接間に通された私たちがソファーに腰を下ろすと同時に、叔母が親しげな声音で私に話しかけてきた。

 いつものきつい口調とは正反対なので、私は驚いてポカンとしてしまう。

 そうは言うけれど、琉輝さんの存在を知ったらお見合いを勧めない代わりに鳴宮財閥に取り入ろうと必死になっていたはずだ。拝金主義の叔母の行動はある意味わかりやすい。

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