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 留学期間を終えた翠々は日本に戻って大学生活を送り、俺は半年後、無事にビジネススクールでの修士課程を修了した。

 敷かれたレールの上を逸れることなく順調に歩んでいる俺の様子を知った両親はよろこんでいた。

 一回り大きくなって戻ってくるのを楽しみにしていると祖父母も言っていたのだが、予想に反して俺は日本に戻れなくなった。


 社会人になってからはスターレイルエアの本社で働き始める。勝手にそう思い込んでいた。

 だが、うちには関連会社が八十社ほどあり、俺はアメリカに拠点を置くグループ会社で修行を積むことになったのだ。

 頼むから本社勤務にしてほしいと父に直訴してみたものの、受け入れてはもらえなかった。


 改めて日本で翠々と会い、自分の気持ちをきちんと伝えるつもりでいた。

 なにも知らない彼女を驚かせてしまうだろうけれど、俺が鳴宮財閥の後継者だという事実も話さなければと考えていたのに、思惑通りにはいかなくなった。


 メッセージと電話で事情を説明し、俺は翠々に謝った。

 想定外だったとはいえ、ウソをつく形になってしまったから。


 日本とアメリカでの遠距離恋愛になるとわかった上で、付き合ってほしいとは言えなかった。

 だけど俺にとって翠々は最初から特別な存在で、ずっと頭から離れない。


 アメリカで働き始めた俺は仕事にまい進した。それが近道だと信じて。

 そして何度か出張で日本に戻ってきた際には翠々に連絡をして、彼女との食事の時間を楽しんだ。

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