■2■

「はいカズ君、愛妻弁当よ。えへ」



「お前気持ち悪いんだよアオ。確かにお前らの弁当はうめえけど、その渡し方毎度毎度どうにかなんねえのか?それにこの弁当の中身も!この間なんて、ダチにカズお前彼女でも出来たのか?って言われたんだぞ」



「うっせうっせ、作ってやってるんだから文句言うんじゃねえよ」



「だとしてもこの間の弁当はねえだろうが。飯の所にハートの海苔入ってたんだぞ。しかもウィンナーはタコさんだしな、お前らわざとやってんだろ」



「それは俺と兄貴の力作だった」



「なめてんのか」





弁当箱を布で包む俺の隣で学生服姿のカズが眠そうに欠伸を噛み殺しながら視線だけは鋭いものを向けてくる。作ってもらってるだけありがたいと思え。




弁当箱に入りきらなかったおかずを皿に乗せサランラップを止めた後、冷蔵庫の奥へと押し込んだ。




もう慣れた弁当作りだが、まさか宮根に毎日こうやって弁当を持たせる事になるとは思わなかった。




包み終えた弁当箱を開けっ放しのカズのスクールバックの奥へと押し込む。中身は今入れた弁当箱以外何も入ってはいなかった。まあ俺もそんな感じの学生生活を送っていたから何も言えない。




「よし、入れたぞ!」



「ああ。つうかクウはどこ行ったんだ?朝っぱらからいねえけど」





台所兼リビングになっているテーブルの前、胡座をかいて味噌汁を啜るカズがテレビの音に耳を傾けながらも何てこと無さそうに問いかける。




空は朝から親父を探しに行った。通学路ならもしかしたらと思い張り込みに行ったらしい。明日は俺がそうしなければと思いながらも「さあ?散歩じゃね?」そう言ってスクールバックのファスナーを閉める。





料理中、邪魔だと思い後ろで一つに結んでいた髪を解くと、カズが「よいしょ」空っぽにした食器を重ね立ち上がった。




それを受け取り流し台へと滑らせる。蛇口を捻り、冷えた水を出しながらも食器を浸からせているとふいにチャイム音が響き渡った。






「カズ、誰か来たぞ」





蛇口を止めるとキュっと閉まる音が鳴る。




濡れた手を腰に巻いていたエプロンで拭いながらも廊下に顔を出すとカズは口の中に歯ブラシを突っ込みながらも脱衣所から顔を出し「クウだろ?」そう言って再び脱衣所へと顔を引っ込めた。





空?いや、でも帰ってくるにしてはまだ早くねえか?もしや親父と接触出来たとか?不審に思いながらも濡れた手をしっかりと拭い玄関へと足を運ぶ。チャイム音が再び鳴った。まるで急かすように。




ピンポーンピンポーン、立て続けに二度ほどチャイムが鳴り響く。




「はいはい、今開けるっつの」




ドアスコープから確認もせず扉を開けた。




扉を開けた先には知らぬ男が一人立っていた。




やけに酒臭く後ろに前にとヨロけるそれは泥酔状態に近いらしい。ボサボサの黒髪が垂れ、荒んだ瞳がキっと俺を射抜く。




いったい誰だと思った矢先、俺の体が後ろへと勢い良く引き寄せられた。




真後ろから俺の腕を掴み、入れ違うように前に出たカズがドアノブを掴み勢い良く引き寄せる。




目の前で男の姿が閉まる扉にかき消されていった、がーーーーーーーーーーードカッ!!!締まり切るドアの隙間に男の靴が入り込んだ。




数センチの隙間を開けて扉の動きが止まると今度はその隙間に男の両手がグググググググググ入り込む。まるでホラー映画のようだった。




「カズ、誰だよこいつ」



「いいから閉めろ!!早く!!!」



「…、」




初めて切羽詰ったカズを見た気がする。中に無理矢理押し入ろうとする男の両手と足をそのまま挟んでやろうと強くドアノブを引くカズが後ろに反り返る。




その様子に呆気に取られた俺だけど慌ててドアノブに両手をかけてカズと一緒に引き寄せた。二人がかりで引き寄せるドアノブが何故かズルズルと前に引っ張られる。男の力は異常に思えた。




男の両手がズルズルと中に侵入してくる代わりに俺達の体がズルズルと前に引き寄せられる。




「だ、誰なんだよっ」




無理矢理こじ開ける男の顔が見えてきた。濁り切った瞳が不気味だ。何だか笑っているようにさえ見える。




「俺のっ、親父だ」



「えっ」





こいつが?お前の親父なのか?似ても似つかねえけど本当に?肉親とはソリが合わないんだと言っていたカズの言葉が蘇る。息子の部屋に無理矢理押し入ろうとする男がカズの父親には到底見えなかった。




そんな事を考えていた途端、強引に開かれた隙間から突然伸びた男の手が俺の首元に絡みついた。前からガっと首を抉るように捕らえられ呼吸が止まる。




首に絡みついた男の手が真上に引き上げるようにグリグリと俺の首元を抉りにかかった。





「あぐっ、」





ドアノブにかけていた手が滑る、あまりの苦しさに首元に絡まった手を退けようと片手を男の腕へと伸ばすと隙間から見えた男がにやーっと笑ったのが視界に入った。




俺の力が緩んだ瞬間、男がドアを勢い良く引き寄せた。





カズが前につんのめってすっ転ぶ。開け開かれたドアの前に男は俺の首元を捕らえたまま仁王立ちしていた。




「お前、親父が帰ってきたのに閉め出そうとは良い度胸してんな。和臣」





男がそう言って俺の首元を名残惜しそうに離した。まるでそのまま殺してしまいたかったとでも言わんばかりにゆっくりと。




男の手が離れた瞬間、俺はその場で崩れ落ち片手で首元を押さえて咳き込む。嫌な記憶が蘇った。





「アオッ、大丈夫か!」



「…ああ、」



「何しに来やがった。もう俺に関わるなって前にあれほど言っただろ」



「くそガキが舐めた口聞いてんじゃねえよ!!!」





しゃがみ込む俺の隣で腰を折ったカズ目掛けて男が振り上げた足が飛んでいく。下から上へと蹴り上げられたカズが俺の後方で後頭部を強か打って倒れ込んだ。




一瞬の出来事で言葉が出ない。親が子供を蹴り飛ばしたのか、それも本気で。





後方で倒れ込んだカズへと振り返る、口から血を流すカズが悔しそうに口元の血を腕で拭い取った。




いったい何が起きているのか全く理解出来ない。この男は実の息子に何をやってんだ。何が目的でここに来たんだ。目を白黒させて喘ぐように息を吐く俺の隣を男はヌっとすり抜けた。




靴も脱がずに室内へと入り込み口から血を流すカズの隣を抜けて奥の部屋へとずかずか入り込んでいく。





男がドアから手を離した事によりゆっくりと目の前で開け開かれていた扉が閉まった。――――――――――バタン、目の前で塞がった扉と後方から鳴る異様な音が重なる。





再び後ろへと振り返ってみるとあの男はタンスの引き出しを雑にバタンバタン引き出してはひっくり返していた。中に収められていたカズの服が、ノートが、帽子が、床に屍のように転がっていく。




「何してんだよ、」




誰に問いかけていいものか悩み吐き出した声は頼りない声になった。




腰に手を当てて立ち上がる。




カズは散らばる自分の大事な物を見て見ぬ振りするように座り込んだまま真下のフローリングの床を見つめて居た。




男の手は止まらない、ひっくり返しては叩きつけ、ひっくり返しては踏みつけて、そうしてついに見つけた封筒を両手で掴み腰を上げる。




封筒に書かれている文字に視線が止まる。【今月分です。大事に使ってください】カズが言っていた親戚からの仕送りが詰まった封筒だと何故かすぐに分かった。たぶん直感的なものだろう。




「ったく、また別の場所に隠してやがったなクソガキが。」




男は見つけた封筒を大事に大事に胸ポケットへと押し込んで服越しにポンポンと叩き笑う。




「お前のこの金が頼りなんだからよー、ちゃんと渡してもらわなきゃ困るだろ。息子が父親を助けるのは当然の事なんだからちゃんとしてくれよ和臣。お前がもうちょっと良い顔だったら体でも売ってもらって金稼いでもらえたんだけどな、そういう知り合いはいくらでもいるんだからよ」





部屋を悲惨な状態にしたくせにそんな事どうとても無いと言うように男は屍の物を踏みつけてこちらへと再びやってきた。




座り込んだまま黙り込むカズの肩をポンポンと二度ほど叩き頭を撫でる。





それが親のやる行為なのか?カズがどうして一人で暮らしてるのか良く分かった。




親とソリが合わないと言っていた事を良く良く理解した。




詳しい事情までは分からないが、カズを心配して金を渡してくれてる親戚の気持ちも全部踏みにじっていた男が許せないと思った。




空なら何て言っただろう。この時代の事はもう過ぎた事だから手を出すな、深く関わるな、目を反らせ、そう言ったかもしれねえけど俺はどうしても許せなかった。






男が俺の元へとやってくる、視線だけを滑らせて俺の顔を繁繁と確認した後、隣をすり抜けた。その肩を反射的に引き寄せる。




「ああ?」




男が訝しむような表情で俺へと肩越しに振り返った。




「その金を置いて行けよ。それはてめえの金じゃなくてカズの金だろ。良く読んでみろ、てめえは字も読めねえのか。その封筒に、和臣君へって書いてあんだろ。」



「何だてめえ」



「お前、息子の物は親の物とでも思ってんのかよ。親っつうのはな子供を愛してこそ親なんだよ。カズの事愛してもいねえお前は親じゃねえだろ。だから、その金もお前が持って行っていい物じゃねえんだよ!!」





男が逆上したように俺の首元に両手をかけた。後頭部が嫌な音をたてて廊下の壁にぶつかる。視界の隅でカズが慌てたように立ち上がり俺に駆け寄ってくる姿を捕らえてから目の前で怒鳴り声を吐き散らす男の横腹を思いっきり蹴り飛ばした。




俺が床に倒れこむのと俺に蹴り飛ばされて男が倒れこむのはほぼ同時だった気がする。




苦しかったし精神的にもきつかった。誰かに首を絞められるのは恐ろしい。




誰だってきっと恐ろしいだろうけどそれ以上にもっともっと俺は恐ろしい。高校時代、拷問のように首を絞められ殺されかけた事がある。それ以来息が上手く吸えなくなった事もあったし夜な夜なうなされる事もあった。




あれから随分経って立ち直った傷がまた抉られる思いだった。




「アオ、やめろ!もう良い、いつもの事なんだ。諦めてんだよ俺は。あれを渡せばあいつは暫くこねえからやめろ!」



「っ、あれを渡したら親戚の気持ちも踏みにじられた事になるだろ。あれはお前の事心配して親戚が渡してくれた金なんだ。お前が使うのが正しいだろ!だから俺が取り返す」





ケホッ、咳き込みながらも膝に手を当て立ち上がる。男も俺と同じようにゆらりと立ち上がり殺意のこもった瞳を丁度俺へと向けたところだった。




男がフローリングの床を蹴り飛ばす。胸ポケットに入れた白い封筒がヒラヒラと揺れていた。





そっか、そうなのか、俺は全然知らなかったな。俺達の知るお前はさ、ガキの俺らを大人の姿で守ってるうざってえけど頼りになる警察官だったからまさかこんな過去があったなんて知らなかった。




お前はこうやって親戚から貰った金を親父に奪われて悲しい思いしてたんだな。取り返そうとしたらきっと何度も蹴られて殴られただろ、痛かっただろうな。そういうの誰かに頼る事も出来なそうだもんなお前、だってプライド高そうだし。




殴りかかってきた男の拳を避けて胸ポケットに入っている封筒へと手をかけて引きずり出す。白い封筒がヒラヒラと揺れて踊るようだった。





「カズ、お前の物なんだよこれは!」





引きずり出した封筒をカズへと投げる。ヒラヒラと空中を滑って落ちていった封筒は両手を広げてパチン、打ち鳴らしたカズの両手の間に挟まった。





それを見届けた直後、男の拳が俺の右頬を捕らえて殴り飛ばした。強い衝撃に後ろにヨロけてそのまま床に背中から倒れこむ。




「アオッ!!」




カズが倒れ込んだ俺を助け起こそうとこちらへと足を踏み出した、それより早く男が俺の上に馬乗りになって伸し掛かり両手で首元を捕らえ締め付ける。見た事のある光景だった。




「あっ、―――はっ」



「親父!!!親父っ!!やめろ!!アオから手え離せよ!!!」






男の手に自分の両手を絡みつかせて首元から離そうともがく、そんな俺に続きカズも男の両手に手をかけて後ろへと引き寄せた。




それでも一向に男の手が俺の首元から離れる気配を見せない。首元はどんどん絞められる一方で酸素が全く行き届かなくなってきた。





パクパクと酸素を求めて動く俺の口を男が嘲笑うように口元に弧を描き「くくくくくくっ」笑い声を落として体を揺らす。




意識が遠のく、心臓がガリガリと削られるように痛い。




「親父、やめろって!!!!」





カズが男の体を引く、それなのに何も感じていないみたいに男は前のめりになって全体重で俺の喉を潰しにかかった。






――――――――と。





キイイィイイィィィイイーー。





静かに玄関の扉が開く音がした。




鍵もかけずにそのままの状態だった扉が静かにソっと押し開かれる。




苦しさに耐えるように瞑っていた瞳をソっと開けると玄関に立ち尽くす兄貴がスっと瞳を細め状況を何となく悟った姿が見えた。



土足のまま中へと踏み込んで来る足音が一切しない。





男を俺から引き離そうと引き寄せていたカズを言葉も無く視線で退かしスルリ、まるで猫が這い寄るように音も無く俺の首元を絞める男の首元へと腕をかけた。





腕をかけられてから背後に別の人物が立っていた事に今更気付いた男が驚いたように振り返る、がもう遅い。




兄貴が渾身の力で男の首元にかけた腕を引き寄せた。まるで折らんばかりに強く強く後ろへと。





「あがっ!!!!」





男の手が俺から離れる。自分の首を絞める空の手に両手をかけて首から離そうとバタバタもがく男は死にかけで苦しみもがいているようだった。




「ゲホッ、はっ、」



「アオ!おい、大丈夫か、息、い、息出来るか!?」






カズに問われて頭を縦に振る。俺の目の前で苦しみもがく男の顔が真っ青になっていった。




兄貴はそれでも絡めた腕を離そうとはしなかった。ただ男の首元を背後から強く絞めて咳き込む俺の様子をジっと窺う。





何か兄貴に言葉をかけようと思ったが声が出ない。浅く浅く口からただただ漏れる呼吸音と異様な声でもがき苦しむ男の断末魔のような叫びが室内を支配する。




そうして数秒、俺がブンブンと声も無く頭を横に振ると空は強く男の首に絡めていた腕をソっと解いた。





「お前、泥棒?部屋が酷い有様じゃねえか」





床に倒れこみ咳き込む男の背中をわざと踏みつけて俺の元へとやってくる。




「はっ、はっ、…っ、」




俺の浅い呼吸はまだ止まらない。俺の隣でカズがどうしていいのか迷うように左手で強く握りしめていた封筒を俺の前で腰を折った空へと見せた。





「これを、俺の親戚からの仕送り、親父が持って行こうとしてたのをアオが止めたんだ。」





そう言ったカズが俺の背中を叩く。トーントーンあやすように叩かれても浅い呼吸音は止まらない。




苦しくて酸素を貪るように吸い込み吐く、吐くのを躊躇うほど苦しくて酸素が欲しい。




「なるほどねえ。カズ、お前の親父に悪い事しちゃったわーごめんねえ」



「…いや、良いんだ」





悪いなんて微塵も思っていないくせにヘラヘラと笑った空がカズの持っていた封筒を押し返した。




これはお前の物だよと言い聞かせるようにカズに押し付けポンポンとカズの手を叩く。




そしてソっと肩越しに振り返り、廊下で喘ぐように息を吐く男を鋭い瞳で捕らえると。




「お前何?まだ居んの?いい加減消えてくんねえかなー目障りなんだけど」





そう言ってゆっくりと腰を上げた。




空が立ち上がると男は恐怖し「ひぃっ!!」叫び声を上げて廊下を引っ掻くように立ち上がる。足を滑らせながらもドアノブへと縋り付いてもう一度確認するようにこちらへと振り返った。




男が空の表情を凝視して青褪めながらも逃げるようにドアを押し開け逃げ出した。




勢い良く開かれた扉が時間をかけてまた再び閉まる。




男が居なくなった事により室内は俺の浅く吐き出す呼吸音だけに支配される。それを止めようと口を結び、また苦しくなって勢い良く酸素を吸い込む。




「はあっ、」



「…、カズ、お前ちょっと部屋行ってろ」



「え、」



「早く」



「あ、ああ」






空の声がやけに遠い。目の前に居るはずなのにずっと遠くから聞こえて来る。




隣に居たカズが後ろに後退する気配だけは感じた。




だけどそこからどこに行ったのか良く分からない。苦しくて顔を下に下げた俺の口元に空の手が滑る。いつもはヒンヤリ冷たい空の手がやけに熱く感じた。




口と鼻を塞がれて反射的に頭を振った俺を空が押さえつけ「落ち付け」ソっと言い聞かせるように片手で背中を叩く。




強引に塞がれたわけでは無く緩く塞がれたそこに隙間が出来る。




「落ち付け、鼻で息しろ。」





言われ、フっと抜けるような呼吸に変える。それでもまだ苦しさは抜けず、縋るように空の服を掴み引き寄せた。




「俺っ、関わっちゃいけねえとおも、思ったけど」



「うん」





塞がれる手がまた緩む。俺の声を聞き取ろうと兄貴がそっと近づいた。




「ほっとけねえし、だから手出した、カズの親父に。ごめん」



「いいさ、お前他人の事ほっておけねえ性格だもんな。お前の悪いとこでもあるけど良い所でもあるからな、許すよ」



「うん、」



「首絞められて、また前の事思い出したか?」




うん、そう言いかけて言葉が出て来ずに頭をコクコク縦に振る。そんな俺を見下ろす空は困ったように眉尻を下げて「そっか」そう言って俺の口元から手を退けた。




気づいたら呼吸は少し落ち着いていて、空の手が退いて入り込んだ空気をスーっと吸い込みソっと吐く。




殺意を込められて首を絞められたから完全に忘れきっていたあの記憶が蘇った。記憶は忘れていても体の奥底には染み付いたままだったらしい。




兄貴の服にかけていた手が滑る。ズルズルと力無く滑り落ちていった手を空が受け止めた。





「俺が、手出したから未来が変わったかもしれねえ。」



「平気だろ、それにお前が手出してなきゃ俺がきっと手出してた。ま、手出してたっつうか手出しちゃったんだけどね俺も」



「お前のはやりすぎ、」




上体をゆっくりと起こす、下げていた顔を上げると空が俺を心配そうに覗き込んでいた。




自分の首に片手をかける、自分で手をかけても何とも無かった。ただそれを今他人がやったらどうなるかーーーーーー。




「カズの親父、もう来ねえとは思うけど気をつけろ。俺もお前も顔を見られた。何されるか分かんねえからな」





そんな俺の行動を止めさせるように空が手を取り下に落とさせる。掴むものが無くなった手が寂しげに床に落ちた。





俺は空の言葉に「気をつける」そう言って唇を噛んだ。




俺がした行動が本当に良かったのかは分かんねえ。これで宮根の未来が大きく変わるとも思えねえけど、ただただあの時許せなくて飛び出したのは今思えば軽率だったかもしれない。




でもだって、許せなかったんだ。




唇を強く噛み締めた俺を見つめる兄貴が「お前は間違った事はしてねえよ」そう言って宥めるように頭を撫でた。

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