第18章 永遠なる波
第1話 潮騒
第14話
海を覗けるとある丘を星利たちは礼服姿で訪れていた。
「今日はわざわざ来てくれてありがとう」
ひとつの墓石の前で、ザクラの父・春風龍海が立っていた。
「いえいえ」
「きっとあいつも喜んでいると思うよ」
「だといいんですが・・・」
「嬉しいに決まってる。ザクラの仲間たちなんだから」
星利たちは龍海の側にある墓の前にしゃがむ。
持参していた花束をその墓に供え、手を合わせた。
そこには、桜の花びらの家紋と共に、「春風家之墓」と刻まれていた。
拝み終えた星利たちは無言で立ち上がる。
「それにしても・・・。
ザクラはあれで良かったのかしら」
墓石を見つめながら鈴が呟いた。
「ウィーン・ウォンドを自分の手で倒さず、あの世へ送ったことをか?」
「うん。だって、自分の母親と蘭を殺したのに。
いくら海救主の使命や海宝石があるからって、ちょっと可哀想だと私は思ったの」
「たしかにそうだな・・・」
「でももう今は訊けないよ。ザクラちゃんだって悩んだ末にああしたのだと思うし」
星利たちは再び墓石を見つめる。
風が強く吹く音と、潮騒の音が丘に流れていく。
と、そこへ。
「あ、やっと来た」
星利たちは足音に気づいてその方向を見た。
「ごめんね。思ったより時間かかったわ」
星香が苦笑しながらやって来た。
「おせっえよ、姉貴」
「ごめんって。まさか先生が他の患者さんに捕まるだなんて思わなかったのよ」
星香はそう言って後ろを振り返る。
「ごめんなさいね、ザクラちゃん」
「そんな謝らないで下さい。私の事なのに」
ザクラはそう言って首を横に振る。
「で、どうだった?」
「大丈夫だって。あと一回診察したら終わりって」
ザクラはそう言って親指を立てる。
「念のためとはいえ、まだあるのか・・・。本当に念のため、なんだよな?姉貴?」
「だって海救主の力がなくなった分、ザクラちゃんの体に負荷がかかった訳だから。でも本当に大丈夫だから。安心して?」
「・・・分かった」
そんな中、ザクラは「春風家之墓」の前にしゃがんだ。
「・・・今年も来たよ。お母さん」
ザクラはそう言って手を合わせた。
星利たちはその姿を後ろからそっと見つめる。
「・・・さて、そろそろ行きますか」
しばらく手を合わせていたザクラがすっと立ち上がる。
「そうだな」
季節はいつの間にか夏を通り過ぎ、秋に片足を突っ込んでいた。
冷えてきた風がザクラたちの間を吹き抜けていく。
「うぅ、そろそろ衣替えしなきゃダメね」
星香が腕をさすった。
「いや、まだ日中暑いし。まだいいんじゃない?」
「あんたは冷え性じゃないからそう言えるけど、私はそういうわけにはいかないのよ。もう、同じ血を分けた姉弟なのに、なんでこうも違うのかしら」
「知るか」
姉の悩みに星利はため息をついた。
そんな会話をしながら、星利たちは墓地を後にしようと歩き始めた。
そんな中、ザクラがふと足を止め、後ろを振り返った。
「・・・ザクラ?」
「ごめん、先に行ってて?」
ザクラの言葉に星利たちは不安な表情になる。
「ちょっと海を眺めてから行く。大丈夫だよ」
星利たちは顔を見合わせる。
「・・・分かった。でもザクラちゃん。まだ本調子ではないし、もう1回診察残っているんだから、早く戻ってきてね?」
「はい」
仲間たちは不安な顔をしながら去っていった。
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