森 紗季乃

第1話

舞の稽古は、もう三時間以上も続いていた。途中に休憩はなく、紗季乃は途絶えそうになる集中力を失わないように、必死になる。


 四肢の感覚を研ぎ澄ませ、微細な角度一つ違えぬように、より美しく、より崇高に森流の舞ができるように。


「紗季乃さん、もう一度」


 祖母が、柔らかく指示した。


 また、はじめから。


 ドンと身体が重くなったように感じるのは気のせいじゃないだろう。もう足はパンパンで、扇子を持つ腕も怠くてたまらなかった。…それでも気づかれぬように吐息を宙に吐き出し、再び舞と向き合う。紗季乃が舞踊を披露する園遊会までは、もう一ヶ月もなかった。


「女性の浪足(なみあし)は、もっと哀しくあるべきです。あなたのそれは、生者の歩み。愛した殿方を想う、切ない幽霊にはほど遠い。…もはや居場所のない今生を、さまようのです。重く、軽く。もう少しそれを表現なさい」


 口調こそ穏やかだが、祖母の求める内容は容易く表せるものではない。


 桜柄の半衣装でつい懐手になった紗季乃に、祖母は口元を綻ばせた。


「思案、ですか。日舞が身についていて結構です。ですが、考えていても舞は上手くはなりませんよ」


 そうやって、稽古を終えたのはそれから一時間後。祖母を稽古場から見送り、自分も部屋へ戻ろうと思っても、座り込んだまま動けなかった。

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