第17話

「そろそろさ」


 勝が思い付いた体で提案した。


「小野寺さん、はやめない?勝、でいいんだけど」


 随分無茶な希望を口にする。


「えっ、と…」


 達樹は困りながも、思案する。それこそ、真面目に。


「じゃあ、勝さんは、どうでしょう。──でも私も、ずっと“女の子”って呼ばれてますけど?」


 ああ!それね!


 カラカラと笑う勝。


「それは仕方ないよ。だって最初は君のことを男の子だと思ってたんだから」


「えっ!?」


 驚くと同時に開く扉。そこは静かなことで有名な企画一課だったから、達樹は慌てて口を閉じ、一礼してからエレベーターを降りる。



 何故かついてくる勝。


「仕事っぷりをさ、社長に教えてあげようかと思って」


 飄々とした顔。または、企みに満ちた顔。



 デスクごとに封書を置く達樹の後ろで、金魚のフン。



 異様な光景に、騒然とする企画一課。




 やれやれ、と達樹は思う。



 小澤さんといい、この人といい、どうしてこう自分の影響力に無頓着なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る