第10話

その部屋は地下にある。


 それでも閉塞感がないのは、壁際の木製の本棚や、それに並ぶ年代を経て味の出た洋書。それから所々に飾られた観葉植物などのおかげ。


 これはヤトの趣味。


 硬質な家具は嫌い。いかにもな冷たい部屋は落ち着かない。落ち着かなければ集中できない。


 ヤトはそう断言して、殺風景だったこの部屋を変えた。


 ボスはそんなことどうでもいいらしく、好き勝手させている。


 彼は大概無関心で、寛容だ。──仕事のこと以外では。


「ボス、遅いねぇ」


 ヤトは床に寝そべったまま、壁のデジタル時計を見た。


「…ターゲットとの…接触が始──まってるからな。しばらくは──こんな感じ…だろう」


 返事したのは壁を向いて、金髪と背中だけをヤトに見せている大都(ダイト)。コーナーに設置された器具で懸垂を続けているから、会話する声は掠れる。だが呼吸は乱れていない。


 上半身裸で、上体が鉄の棒に引き上げられる度に僧帽筋や三角筋が硬く盛り上がる。だがごつごつと重い身体ではない。しなりを感じさせる、完璧な肉体美。


「大都って、いつ見たっていいカラダ~。憧れるよね~」


 のんびりとヤトが口にする。


「お前も、鍛えたい──のか?男…ができなくなる…ぞ」


「う~ん。それはいやだな。彼氏欲しいしね」


 苦笑いするヤトは、漆黒の短髪。日に焼けていて、健康的な美しさがある。実際の身長よりも高く見えるのは、そのあたりが理由かもしれない。

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