第8話

ああ。


 美味しいです。沙羅さん。


 濃いソースはクリーミー。舌を転がる粒々の触感。パスタもしっかりアルデンテ。



「美味しい」


 呟くと、沙羅さんが小さく手を叩いて喜んだ。


「で?で?他に感想は?蓮太が、達樹ちゃんにたくさんアドバイスをもらいなさいって、言ってたの」


 アドバイス…。


 両手を胸の前で握りしめ、可愛い仕草で私を見つめる沙羅さんを見返せなくて、私はその後ろのコラージュ写真を遠い目で見つめた。


 トカゲ、カエル、ヘビ、アルマジロ。


 カタカナで表現できる生き物たちが無造作にちぎって張られた作品。部分で見ると目が合っちゃうそれは、全体でみると、ちゃんと店に溶け込んでいる。木と緑と、あちこちに箱庭が飾られた素敵な場所なのに、不思議。


「で?」




 あ、沙羅さん、忘れてた。



 私はまた目線を真緑のパスタに戻す。


 強いて言うなら、もう少し緑を押さえて、とか。


 このカエル、睨んできてます、とか。


 カエルのたまごな料理名はどうでしょう、とか。


 このつぶつぶたちの、正体は?




 とか。




 でもさ、蓮太さん。


 店のメニューを見てみなよ。


 “どろどろしたカレー”

 “かたつむりの通り道”

 “焼いた食パンにハムとアボガド挟みました。あと、特製トマトクリームも”


 かたつむりの通り道とか、舌裏痺れるドリンクとか、もう想像外なんだよ?


 全部きっと美味しいのが、沙羅マジックなんだけど。


 だから、こう言うしかないじゃない?


「このままが、いいと思いますよ」


 だって、沙羅さんのことが好きなんだから。

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