第37話

名残惜しく唇は離れ、2人の視線はツリーと少女達に移る。


クリスマスキャロルと共に、ツリーの側に設置されていた箱からフワリと雪が舞い、少女達に降り注いだ。羽のように、軽く。


それは彼女達にも知らされていなかったようで、そのサプライズは歌声を大きくした。


アンコールの一曲に長い拍手をして、小柄で髪の毛がふわふわした天使のような女の子が持つ募金箱にお金を入れる。


 気持ちを込めて、


『幸せが届きますように』


 と小さく英語で呟いたら、その女の子が嬉しそうに微笑んで、背伸びをし、私の両頬に3回ずつビズをくれた。



そして胸元に薔薇の花びらの形をした飾りを付けてくれる。そのピンクローズの由来も教えてくれながら。




美桜さんに、アマリエさんがいつも身につけているという『ローズ・アマリエ』の薔薇の存在を聞いてから、どこか苦手に思っていたピンクの薔薇だけれども。



今日この可憐な女の子が、ピンクの薔薇を『素敵な思い出』に変えてくれた。


 この子は本当に天使なのかも。


私は嬉しくて、彼女がしてくれたように彼女の左右の頬に自分のそれを寄せ、唇をチュッと鳴らした。


「もう行くぞ」


 珍しく私の背中を押してその場から離れた小澤さんが、まさか女の子に嫉妬してるとは知らなくて。


「フランス式の挨拶じゃないですか」


「それでも駄目だ」


 その嫉妬すら嬉しいなんて、クリスマスは人を幸せにするんだと思った。




 その夜、届けてもらったツリーを二人で飾る。


 百貨店からの心配りで頂いたワインを飲みながら。


 キスの数よりもオーナメントの方が圧倒的に多くって、小澤さんが考えた方法は呆れちゃうやり方。


 1回キスしてから、1つのオーナメントを。


 その繰り返し。


 唇が触れるだけの軽いキスだけれど、とても時間が掛かって。


キスに乾く唇を、ワインで湿らせるから。


 飾り終わる頃には、私は酔ってご機嫌になっていた。





それからクリスマスまで、リビングに2人きりになったら、それがルールみたいにツリーの前でキスをする。もちろん、家族にするようなライトキスだ。


ヤドリギの下じゃないけれど、幸福を願う私達のキスは、こうやって毎年の習慣になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る