第15話
「お前が誰を殺していようと、俺には取るに足らないことだ」
やっと、達樹がこちらを見上げた。
俺は身を屈め、目線を合わせる。
吸い込まれそうなその輝きに、それでもいいと惑わされる俺もまた──狂気の中なのかもしれなかった。
「お前が罪人なら、俺もそれを背負おう。お前が裁かれるなら、俺も共に裁かれよう。…だがそれは、神の裁きだけだ」
頬に、手をやる。熱い。だが、生きている証拠なのだ。生を戦う、証。
「神でなければ、この世の誰にも、お前を裁かせない。お前の罪なら俺は喜んで分かち合おう。達樹、お前となら──喜んで地獄に堕ちる」
達樹が驚いたように瞬きを繰り返した。
『…あなた、誰?──八嶋さんじゃない』
『…ああ。八嶋じゃない』
いい加減に覚えろ、と唇をゆるく咬んだ。熱に乾いた唇が、俺の唾液でやわらかく解れる。
下唇を執拗に食みながら、舌で慰めた。
『和臣だ。…二度と間違えるな』
非難がましく教えてやれば、
「ああ──かずおみくん」
花がほころぶように笑う。純粋に。
「あいたかった」
幼い子供に話しかけるように。
「だきしめてあげる」
達樹が、両腕を広げた。
まだ現実には戻らない達樹の、だが庇うように包み込むその行為を俺は黙って受け止める。
もう一度だけキスを。
そう思って彼女の肩に埋めていた顔をあげれば、達樹は眠りに瞼を閉ざしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます