第8話

忘れるなよ。と小澤さんは続ける。


 私の髪を梳きながら、時々指を絡ませてピンと引っ張る。


「お前以外の誰が傷つこうが俺は構わない。その誰かの傷が、罪になるなら──」


 指が、項をまさぐる。


「それは俺の罪であって、お前の罪じゃない」


 隠れる項の柔らかな後れ毛を摘んで、離す。そしてまた、絡める。


「お前は、ただ俺の側にいてくれればいい」



 穏やかなようで、傲慢な言葉の裏側には…、“お前は傷ついてはいけない”と、これもかなり難しい要求が見え隠れしていた。




 小澤さんが、私のすべてを受け入れることができるように──私もこの人を、包み込むことができるだろうか。










  無言のまま、心に問う。





  


 そして、小澤さんに向かって微笑んだ。





 




       答えを、キスに代えて。

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