第7話

「ダメダメ、たっちゃん。余計なことして中途半端に関わっちゃ」


 私を引き留めた天馬を思わず凝視したのは、軽い気持ちで関わるなという、素っ気ないけれど尤もな台詞と──まるで知らない人みたいに冷え切った目をした天馬に意表を突かれたから。


「それに今日来たっていないって。たっちゃんの会いたい人、今外国にいるらしいから」


 私は返事を忘れたまま、肩に乗せられた天馬の、意外に強い手の感触に気を取られていた。


 それでも気になって目線だけを裏口に戻せば、片手で女の人の首を締め付ける男の姿が目に飛び込んでくる。


「 Dammit! 」


 今度こそと慌てて飛び出そうとしたら、天馬の左手が私の右腕を肩ごと引き寄せた。勢い余って反転しながら、体が天馬のそれとぶつかる。


 まるで抱き合っているかのような体勢で、天馬は溜息をつきながら言った。


「どうせ殺さない。仕事に差し障るような痕もつけない。あの女は金づるだからな。女だってそれを知ってる。まぁ、そういうプレイだと思って見逃せばいいだろ、“T”」


 彼らだけでなく、私まで突き放すかのような口調だった。


 ──コノヒトハ ダレ?


 腕の中。これまでで一番近い距離で。


 私は顎を思い切り上げて、天馬の顔を見る。


 同じ顔。同じ声。同じ髪型。見慣れた服。

 

 なのに中身が、天馬のイメージと重ならない。


「天馬…?」


 視線が絡み合った。石みたいな目。私には、なにも伝わらない。


 シバの漆黒の瞳ですら、威圧や恐怖を感じとることができたのに。


 その二つの玉は、きっと何も映してはいないのだ。


 どれが本物?


 私は目を逸らすことなく、これまでの天馬と目の前にいる彼を比べようと試みた。

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