第2話

アルバイトの途中、健吾さんに会った。普通の部署の人たちにとっては終業間際のロビー。


 私は社内広報の表紙撮影に使った花を、もったいないからどこかに飾ってもらいなさいと頼まれ、総合案内の受付に届けるところだった。


 健吾さんは建物の外から、長い紙筒を抱えた男性数人と歩いてくる。談笑しながら。


 咄嗟に花で顔を隠そうかと思ったけど、その前に目が合ってしまった。



 やだろうな。


 心に浮かんだのは、まずそれ。


 まだ、私が小澤さんのまわりをうろうろしているのは、やだろうな。


 私は軽く頭を下げて挨拶を装いながら、目を逸らした。名前も分からない豪華な花に半分顔を埋めるようにして総合案内へ進む。


 背中に健吾さんの視線を感じたような気がしたけど、これは気にしすぎだろう。私は振り返らなかった。


 愛想のいい綺麗な受付の女性に盛り花を差し出す。部署から予め内線があったという報告とお礼の言葉を受け取りながら、私は自分に呆れていた。


 私はまだ“除外される”という行為に弱い。


 公立中学でイジメられていた頃の自分のまま、変わっていないと思い知る。


 不思議なものだ。シバみたいな男に直接向けられる悪意よりもずっと、無害で安全な筈なのに。




 わかってる。


 人の評価を気にするのは自信のなさからきてるってこと。


 私は何もできない。


 私には何もない。


 そんな自分に気づいているから、人にそれを指摘されそうになるとこんなにも動揺したり焦ったりするんだ。


 いつか、大使館で小澤さんの知り合いだという綺麗な女性と話した時もそうだった。


 私は自分に何の価値もないと指摘されて逃げ出してしまった。


 

 でも。



 そのことから避けていたらきっと何も変わらない。



 自分から、掴みにいくのだ。



 そう己を鼓舞しながら天馬からの連絡を待っていた。

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