第6話
「社長、小野寺さまからお電話です」
スピーカーから響く秘書の声に、俺はパソコンのモニターから目を離した。チラリと確認したのは卓上のカレンダー。
「…今日だったか」
大学時代からの悪友小野寺勝(オノデラ スグル)が、約2ヶ月の海外出張を終えて帰ってきたらしい。
会議、決済、顧問弁護士との打ち合わせ。本音を言えば、あまりにも忙しすぎた今日こそは、さっさと家に帰りたかった。
だが、勝と飲みにいくのも冷静になるにはいい手段かもしれない。
俺の熱情に焼かれるように抱かれておきながら、今朝は何事もなかったかのように装う達樹(タツキ)に淡い苛立ちを感じる一方で、俺もまた、彼女をどう扱っていいか迷ったままでいた。
逃げにしかならないと意識しつつ、内線で電話をつなぐよう指示する。
「無事帰ったか」
『おぅ。成果も上々。数社は吸収できる勢いだ』
「それは何よりだ」
『当然だろ…ところでどこで飲む?』
「ロクに昼食もとれてないからな。食いながらにしよう。和食でよければ、木原屋に席をとっておくが?」
『和食か、いいな。じゃ、そのまま向かわせてもらうよ』
電話を切って、ついでに
「…やめておこう」
胸ポケットから取り出しかけた携帯から手を離す。
『今日は遅くなる。夕食は外で』
彼女へのたった一つの伝言も躊躇ってしまうほど、俺は彼女を意識していた。
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