第32話

「しっかし、思い出だらけだよなあ。

 ほら、梓がいなかった間さ、ありさがピザ食いたいからって来た時、私が頼んだエビがいっぱい乗ったピザを頼んだら、こんにゃろうがエビ殆ど食っちゃってさ」


「美咲、めっちゃ怒ったよね~。

 宥めるの大変だったなあ」


「そこにエビがあったら食うじゃろ?」


「食うなとは言わんが、加減があるだろうが。

 エビであんなにキレたの、人生で初めてだった」


「初体験が出来て良かったじゃん。

 赤飯炊けば良かった?」


「あほか!

 梓がいなくて寂しくて、酔っ払ってくると、泣きながら『梓に逢いたいよ~』って言いまくってたもんな。

 動画に納めて、梓に送っといたが」


「ぶえっ、ちょ、送ってたの!?

 初耳だぞ、おい!」


ありさが慌てて梓の方を見るが、当の梓は涼しい顔をしている。


「ちょ、澪ちゃまは知ってたの!?」


「えっ!?

 いやあ、あたしは、その、知らないです…?」


「さらっと目を反らさないで!

 嘘でしょ!?嘘だろ!?」


「そんなに疑うなら、梓に動画を見せてもらえばいいだろ」


そう言って、美咲は台所に行ってしまった。


「あ~あ、遂にばらしちゃった」


梓はバッグから携帯を取り出すと、動画を立ち上げありさに見せた。

見た瞬間、ありさの顔は烈火の如く赤い顔になる。


新しい缶ビールを片手に戻ってきた美咲は、座ってたこ焼きの焼き加減を見る。


「たこ焼きをくるっと回してみたい人~」


美咲の問いに、澪と梓が手を挙げた。

長い串を渡し、3人で楽しくくるっとしていると。


「うおおおおっ、こんな動画消しちまえ!

 おいみさきち、何でこんな動画撮ったんだよ!?」


「遠く離れている梓に、少しでも寂しさを緩和してあげようと思いまして」


「こ、こんなあたしの動画じゃなくていいじゃんか!

 最後鼻水が垂れてるじゃん!」


「ありさのどんな姿だって、梓なら受け止めてくれるだろ」


「それは解ってるけどさ!

 てか、何でみんなでくるってやってんだ、あたしもやりたい!」


「もう全部やっちまった」


「いつの間に!?」


「「「ありさが赤面しながら動画を見てる間」」」


「3人でハモんなよ!」

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