第94話
しかし、それは不発に終わる。
何故なら、彼女の手に力が入ったから、解く事が出来なかった。
「綺麗だね」
「…ん」
イルミネーションどころじゃない。
手を繋いで歩くのが、こそばゆくて。
顔は相変わらず熱くて。
胸の真ん中が、何だかいずい(※いずい/もやっとする等の意味の方言)
いつもよりも彼女が、君が近い。
なんて事はないのに。
「…やっぱこういうの、彼氏とかと来た方が良かったんじゃないか?」
「え、何で?」
「私なんかと来たって、楽しくないんじゃないかって思って」
「私なんかなんて言わないで。
あたしは森本さんと一緒に来たかったし、一緒に回りたかったんだもん。
そうだなあ、来年は彼氏と来れるかな?」
「さあな、解らんよ」
1年後、私達はどうなっているんだろう。
変わらず一緒に生活を共にしているのか、それぞれの場所でそれぞれの生活を送っているのか。
明日の事も、3分先の事だって解らないんだから、未来の事なんてなおの事解る筈もない。
先の事なんて、どうだっていいのに。
未来の事なんて、ろくに考えた事もなかったのに。
「森本さんこそ、彼氏と来てるかもしれないじゃない」
「んな事はまずないから安心しろい」
今が全てだ。
今を、現在を、生きているのだから。
今日を生きて、明日を迎えるのだから。
「未来の事は解らないけど、今は森本さんと一緒にいるのが楽しいんだ」
見透かしたかのように、そんな事を言われるなんて思ってなかった。
偶然だとするならば、君は狡い。
ちらりと君を見る。
目が合うと、優しく微笑む。
照れくさくて、目を反らす。
最早手を繋いでいる事は、頭から消え去っていて。
視線を前に向ける。
順路を歩く。
時々君は立ち止まり、スマホで写真を撮ったりして。
するりと手が離れる。
君は光に夢中だ。
手を繋いでいた事を思い出す。
温もりが離れた手が、冷たい空気を掴む。
光の中、君の背を見つめる。
小さな体を光に照らされて、淡い蛍の光のように見えた。
季節外れの蛍は、ふわりゆらりと漂うようで。
ジャケットのポケットにしまったままのスマホを取り出し、カメラモードを起動する。
徐にレンズを君に向ける。
君は相変わらず、こちらに背を向けている。
振り返ると察した、ほんの僅かな時間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます