第45話

「『食事は部屋でしよう』

 ホテルのフロントに着くちょっと前に言われて、スタッフさんに促されて。

 彼は先に部屋に行って…。

 逃げ出したかった…けど、出来なくて…。

 行くしかないんだって思った…」


変わらぬ悲しみ色。

声は少し震える。


「着替えが終わって、スタッフさんに部屋に促されて。

 彼はベッドで待ってた。

 律儀にガウンまで着てね。

 ベッドの近くまで行ったら、いきなり腕を掴まれて。

 ベッドに押し倒されたら、『ガキは金をちらつかせたら、簡単に釣れるからいい。金の為なら、簡単に脚を開くもんな』って。

 そこで初めて、自分の愚かさに気付いた…」


青ざめていく顔色。

私はただただ、話を聞く事しか出来なくて。



彼女を見聞きしている事が、辛くて…。



「軽はずみが自分を殺す事になるんだって。

 情けなくて、でも、どうする事が出来なくて。

 『ああ、因果応報だ』って思った。

 ははっ、馬鹿だよね…。

 荒い鼻息や息遣いが肌に当たって、気持ち悪くて。

 男の人は年齢を問わず、相手が女の子や女の人だったらいいのかなって思う自分がいた…」


話を聞きながら、上下に首を振るしか出来なかった。


「救いはないと思った。

 けど、森本さんが助けに来てくれた。

 どれだけ嬉しかったか…。

 でも、彼を殴った森本さんの泣きそうな顔を見たら、胸がギュッて痛くなった。

 自分はどうでも良かった。

 森本さんに迷惑を掛けた事、心配させた事の方が悲しくて苦しかった…」


気付いたら、彼女の瞳が涙に濡れていく。

見ているだけで、心が締め上げられていく感じがした。


泣き始めた彼女を、見つめるばかりで。

濡れる頬を、黙って見ている事しか出来なくて。


「ここに…この場所にいたいって思う自分がいた。

 甘えたい訳でも、甘やかされたい訳じゃないの。

 居心地の良さに、沈みすぎてた。

 森本さんの優しさに、甘えすぎてた。

 ごめんなさい…」


涙が雨のように滴り落ちる。

私は拭う術を知っているけど、指先は動かず。




でも…。




でも。

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