第5章/夏はイベント多いし、楽しんだもん勝ちじゃない?

第80話

7月に入り、気が遠くなるような暑い日々が続く。

まだ蒸し暑さが残っており、早くカラッとしてほしいところだが、それはそれで暑さは増すし、しんどさも急上昇になるのが厄介なところ。


夏時期の電車通勤は憂鬱だと、何度溜め息混じりに思った事だろうと美鈴は思う。

乗車時間は僅かなものではあるが、おじ様達のYシャツから出ている腕が、自分の腕に触れた時の不快感は言葉に出来ない。

満員電車だし、不本意なのも理解しているのだが、どうしても言い聞かせてみても、駄目なものは駄目なものだ。


乗車している男性が、全て今をときめく人気俳優や男性アイドルだったら大歓迎なのに。

そんな夢物語も虚しく、現実はいつだって苦いし厳しいなと、諦めの溜め息を静かに吐いた。


社内に入れば、柔らかなクーラーの冷たい風が、美鈴の顔を優しく撫でる。

本日も無事に会社に辿り着けたと、安堵しながらタイムカードを押した。


着替えを済ませ、事務所の扉を開ければ更に涼しい。

1階はそこそこの広さがある故、室内が涼しくなるのに時間がかかるが、事務所はそこまで広くないので涼しくなるのが早い。


「ふい~、涼しい…」


「美鈴ちゃん、おはよ。

 冷蔵庫に冷たい麦茶入ってるから、水分補給がてら飲みな~」


この時期になると、早めに来ているパートのお姉さんが麦茶を作っておいてくれるのだ。

失われた水分を、冷たい麦茶で補う。

麦は麦でも麦酒(ビール)がいいなと思うも、朝っぱらから酒の事を考えるのもよろしくない。

冷えた麦茶は喉を潤しながら、体をゆっくりと冷やしてくれた。


朝礼を終え、自分のデスクに向かい、仕事に取り掛かる。

まだ少し眠たい頭を動かしながら、仕事をこなしていく。

ミスをしないように、気を付けながら。


いつもの時間。

そろそろ薫が来る頃だが、バイクの音は聞こえてこない。

道路が混んでて遅いのかなと思った矢先に。


「おはようございます~」


額から零れ落ちる汗を、首に掛けているマフラータオルで拭いながら、荷物を持って現れた薫。

汗さえ爽やかに見えるのだから、暑さも悪いものではないと思う女性陣。

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