蜜月~孤独な金狼と死にたがりの少女

本郷アキ

第1話

蜜月~孤独な金狼と死にたがりの少女~



 美しい月が窓を照らし、窓に一瞬ゆらりと影が映る。

 両開きの窓が大きく開け放たれ、強い風が部屋の中に吹き荒れた。

 硬い木の床で寝ていた沙耶さやは、窓の開いた音と頬を掠める風に驚いて目を覚ます。

(びっくりした。風で窓が開いちゃったのかしら。鍵はかけたと思ったんだけど)

 沙耶は身体を起こし、風で開いてしまった窓を閉めるため、のろのろと身体を起こした。背中が擦りきれたように痛い。木の破片で切ってしまったのかもしれない。

 かたんと音がして沙耶は暗闇に目を凝らす。

 すると突然、目の前に真っ黒い影が現れる。一瞬で心臓が跳ねて、息が止まりそうになった。驚きのあまり沙耶の口から、蛙が潰れた時のような引き攣った声が上がる。

「ヒッ、グ……!」

 真っ黒い影だと思ったのは人の形をした男だった。

 窓からの明かりに照らされた姿は、まるで吸血鬼のようだ。もちろん吸血鬼なんてお伽噺で語られる話に過ぎないし、見たことがあるわけじゃないけれど。

 突然現れた男は慌てるどころか沙耶を見て綺麗な笑みを顔に湛えた。月夜に照らされた彼の美貌は美し過ぎて、一瞬にして目を奪われる。

 金色の髪に同じ色の瞳。触れたら消えてしまいそうな儚さがあるのに、射貫くような瞳で見つめられると身動きが取れなくなるほどの力があった。

「だ、れ……?」

 沙耶は喉から声を絞りだして、男を仰ぎ見る。恐怖で身体がぶるぶると震えるが、逃げだそうにも逃げられるとは思えなかった。

 殺される。そう考えて、目を瞬かせる。

 そうだ──。

(この人に、殺してもらえばいいんだわ)

 生きていたって仕方がない。

 沙耶に自由なんてありはしないし、穀潰しと言われている生活を終わらせてくれるならちょうどいいのではないか。

 無残な殺され方をすれば、どこかの知らない誰かくらいは同情してくれるかもしれない。なんていい考えだろう。

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