序章

第1話

十年前ーー。



「どうして双子なのにこんなに違うの?ゆかりはこんなに表情豊かで可愛いのに」



「本当だよな、紫はこんなに可愛いのに。かいのこの鉄仮面みたいな無表情はなんだよ」



「アンタ達!!海の前でなんてことを!!」



「良いんですよ、お義母さん。本当のことですから」



「なっ!?」



「腹の中に居る時に、紫に全てが与えられたんだろ。可愛いから」



「そんなわけないでしょ!!海だって可愛いっっ」



「そんなことを言うならお義母さん。あげますよ」



「ハァ!?」



「お袋が海を育ててくれよ。俺達は紫だけで十分」



「バカなことをっ。双子なのに離して育てたらかわいそ……海?」




いつの間にか双子の妹の海が祖母の横に立ち、服の裾をキュッと握った。



その表情は確かに無表情に見えた。



けれど




「海、お祖母ちゃんのとこに来る?」



「……」




海は迷うことなく、しっかりと頷いた。




「わかった。お祖母ちゃんと一緒に暮らそう、海」



「……」




また頷いた海は、小さな手で祖母の手をキュッと握った。




こうして一卵性双生児の紫と海は別々に育てられることとなった。



紫は彼女を溺愛してやまない両親の元で。



海は厳しくも優しい深い愛情を持つ祖母の元で。

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