ほんのり四聖獣育成ライフ

桜雪

第1話 元気な魂と天使の女医と

「死ぬってこういうことなんだな~」

 憧れていたJKライフ、無作為に注がれる愛を弄びながら送る予定だったJKライフ。

 容姿には自信がある…たまたま他人が気づかなかっただけで素材はいいはず。

 きっとJC時代は部活に打ちこみ過ぎただけで、ソッチに気が回らなかっただけ…。

 恋をするの、ううん、恋をされるの♪注ぎなさい、アテクシの空っぽのハートに、貴様らの愛をー!!


 って…浮かれて歩いていた高校入学初日、アタシはバスに跳ねられた…。

 乗るはずだったバスに思っクソBANGって跳ねられた…。

「アウッ」

 変な声が出て、意識が遠くなった…。

 走馬灯?そんなもんなかったわ。


 ………

「カッコ悪いわ」

 目を閉じて間もなく女性の声でガバッと飛び起きた。

「ホント…カッコ悪いわ…」

 目の前にいる白衣の女性が呆れて現実を否定するように首を横に振る。

 アタシの目覚めの第一発声は「大きなお世話よ」だった。

 女医はモニターを指さしアタシに言った。

 モニターにはアタシと思しきフレッシュな事故現場が映されている。

 女医はグイッと画面をズームして仰向けに倒れているアタシに寄った。

「見なさい、入学初日だからって気合入れて勝負パンツで入学式って…アンタ風俗デビューと勘違いしてんじゃない?黒のレースって…何考えているのかしら?ビッチなの?ビッチなのね…はぁ~」

 呆れた顔で大きなため息の後、カクンッと顔が下を向く。

 釣られて視線を下に向けるとまくれたスカートから黒い総レースのパンティ丸出しだった。

 慌ててスカートを戻して言い返す。

「ビッチじゃねぇし‼」

「見なさい、自分の死に様を…黒の総レースパンティ丸出しで踏まれたカエルのように這いつくばって、あんなみっともない死に様…御両親もドン引きでしょうね」

「ドン引かねぇし、愛されてってから、ドン引かれねぇし」

「引くでしょ…娘が高校入学登校初日に黒のレースパンティ丸出しでバスに跳ねられて死ぬって初日の珍事だし、近所で噂されんのよ、付属高校だか風俗GOGOだか解りませんわね~って」

「大きなお世話だし…ってか死んだのアタシ?」

「死んだわ…即死よ、打ち所がね…クリティカルヒットだったわ」

「そんな…ってか、アンタ誰?」

「アタシはドクターキリコ、このラボの所長よ」

「ラボ?」

「ラボよ、意味解る?ラブホじゃないのよ?ラボよ」

「ビッチ扱いよせや」

「制服の下に黒レースパンティって風俗嬢の初期装備よ、客もそういうことじゃないんだよな~ってなるわよ、むしろ綿パンツくらいが逆にいいってなるわよ」

「高校デビューに気合入れただけよ!!」

「気合の方向が風俗だってのよ、ビッチが!!」

 キレたアタシにキレ返す女医。


 元気な死人と謎の女医の不毛なやりとりが途切れて数十秒…。

「ところで…アタシどうなってるの?」

「死んでるわ」

「割と元気なんですけど…」

「魂抜けたばっかだから」

「アタシ魂なの?」

「エクトプラズム的な状態よ、解る?理解できてる?ギリギリかしら?」

「エスエムプログラム?ってどういう状態?」

「可哀想…若さだけじゃ客がつかないことを自覚してるのね、そのプログラムをアナタが望むなら勉強したらいいわ風俗高校でね」

「付属高校だし、風俗やらねェし」

 パラパラとレポートらしき紙をめくるキリコ。

 再び大きくため息を吐いて

「陸上ばっかで、脳筋なのね、解るわ…バカって足早いから」

「陸上選手に謝れやオメェ」

 クルッと背を向けた女医の背中には大きな白い羽が生えていた。

「えっ?羽?」

「そうよワタシ天使だもの。解る?アンタと違う高尚な存在なのよ産まれたときからね、天然危険物のアンタと違うのよ」

(マジで死んだんだ…痛くも痒くもないけど)

 サ~ッと血の気が引いた。

「いい感じね、死人らしい顔色になったわ」

 ニタッと笑うキリコ。

 よく見りゃ美人だけど性格の悪さが笑顔に滲み出しているような顔。

「どうなるのかしらアタシ?」

 グイッと顔を寄せて来たキリコ。

「生きたい? 生き返りたい?」

「……ソレ選択できるの?意外だったわ」

「ワンチャン掴んでみる?」

「……掴んでみる」


 再びクルッと白衣を翻し、スッタラスッタラと部屋の隅に無造作に置いていあるっ使いまわされた感のあるダンボールを4つ指さした。

「選べ‼ オマエのパートナーを‼」

 芝居がかった顔にムカついた。

 両手を広げたついでに羽をバサッと広げた姿にイラついた。

 箱に近づきマジマジと見れば、黒いマジックで『白虎』『朱雀』『青龍』『玄武』と汚ぇ字で書かれている。

「選べ、そして育てろ一人前になるまで100年かかる、オマエは生き返る代わりに、この聖獣と共に生きるのだ」

「……えっ? なにそれカッコいい‼」

「うん? だろ? 破格の条件だ、ラッキーだったな、早く選べ」

 モニターに聖獣が4匹映し出される。

 白く猛々しい『白虎』炎を纏った鳥『朱雀』稲妻を纏う青い龍『青龍』大地を割るようにそそり立つ黒い亀『玄武』

「悩むわ‼ カッコいいわ‼」

「黒いパンティとお揃いで玄武なんかどうだ?」

「いや、あえて真逆の白い清楚派、白虎にしようかな‼」

「よし決まり‼ ダンボール持って地上へ帰れ‼ クソビッチ」


 あのとき、別の四聖獣を選んでいたらどうなっていたのだろう?


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