第90話

背伸びして、漸く届く相手の唇に私からキスをする。





ちゅっ




響いたリップ音と、離れる唇。



剣は吃驚したのか、手に持っていたスマホを地面に落下させた。





「好き。」


「……。」


「ありがとう、大切にしてくれて。」


「なっ……。」





ぐりぐりと、顔を胸元に押し付ければ石鹸の香りが鼻を掠める。





「勃ちそう。」


「え、汚い。」


「何でだよ、生理現象だろ。」




これがないと俺達の可愛い子供11人も作れねぇんだぞっていう抗議が正面から上がるけれど、あんた本気でそんなに作るつもりだったのかよ。



どんだけ少子化に貢献するつもりだ。日本の未来を担い過ぎだろ。





「…あのよ、お前からの誘いを断ってなんだが…。」


「ん?」


「真白とは離れたくねぇから、抱き締めて一緒に眠ってもいいか?」


「……。」


「何もしないって約束する。」


「…信用に欠けるな。」


「泣いても良いか?」


「ふふっ、嘘だよ。」





閉じていた室内へと繋がる窓を開いて、剣の腕を引っ張った。






「私も眠りたい。剣と一緒に。」


「クソっ、可愛過ぎだ。」


「きゃっ。」





宙に身体が浮いた次の瞬間、剣に抱かれたままベッドへと沈む私達。



スプリング音が、静かな室内に反響する。







「おら、さっさと寝るぞ。明日も遊ぶからな。」


「うん。」






シーツ一枚に二人で包まれて、互いの温度を密着させた。





「愛してる、真白。」


「ん……。」





心地の良い体温に抱き締められたまま眠りに落ちる、甘くて艶やかな夏の夜だった。

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