第72話
もう着替え終わってる剣は捨て置いて、各自部屋で水着に着替えてから集合しようと提案した道梨に、一人を除いて不平不満を言う者はおらず圧倒的民主主義の勝利で提案が可決された。
それから約30分後。
「あんた丸焼きにでもなりたいの?」
海岸に戻った私は、海よりも砂浜で体育座りしている背中にしか目がいかなかった。
人ってあんなに小さくなれるもんなの?
あの背中で本当に西地区を背負ってるの?せいぜい米10kgくらいしか背負えなさそうな雰囲気纏ってるぞあいつ。
「真白か!!!」
怖ッッッ
私が声を掛けた途端、ウサイン・ボルトのクラウチングスタート並みの早さで振り返った男に恐怖で心臓が跳ねる。
目、バッキバキ過ぎだろひつまぶしでも摂取したのか貴様。
勢いよく砂を蹴って駆け寄って来た剣の両手が、私の肩を捕らえた。
「な、なに!?!?」
「ハァ…ハァ……ハァ…。」
「犬かよ。」
「そんな会話をしている場合じゃねぇ、俺は今、お前の為なら犬にでも喜んで成り下がってやるって思ってる。」
はぁ?じゃあ今すぐハウスしろ。ステイしろ。
発情期の犬みたいに息を荒げていても、剣の顔は美しい。
好きな男だから何割にも増して魅力的に映ってしまうから本当に困る。
「真白、お願いだ!!!!」
切羽詰まった表情で迫る相手は、刑事ドラマの主演を張る俳優さながらだった。
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