*A

第20話

翌朝私は、若干の窮屈さと重苦しさの中で目を覚ました。




パチパチ




何回か瞼を瞬かせれば、だんだんと視界も広がり鮮明になっていく。



そこで漸く、剣に抱き締められて自分が眠っている事に気が付いた。





「なっ……。」




驚きの余りに出た声を強引に自らの手で封じ込める。





お、おいおい。


待ってくれ…この男…………私に何もしてないでしょうね!?!?!?(彼氏なのに信頼ゼロ)





性的な前科だらけの男に疑惑が浮かんだが、確認する限り服も乱れていなければはだけている部分も見られない。




「ん……真白……。」




規則正しく呼吸を繰り返しながら、寝息を零している剣に視線を伸ばす。



私の身を護るようにがっちりと絡められた腕。



相手の温もりが肌に伝う感覚が酷く心地良くて、それでいて心は擽ったい。





まさかこの温もりにこんなにも安堵する日が来るだなんて……。



未だに時々、この現実が信じられなくなる。





あの日、あの時、あの瞬間。



体育館裏で、この男と遭遇していなかったら。


本性剥き出しで暴言を吐き散らかしている自分の姿をこいつに目撃されていなかったら。





私はきっと、剣に恋する事も剣と恋人になる事もなかったんだろうなぁ。






「真白……。」




どんな夢を見ているのだろうか、さっきから寝言で私の名前を出す恋人に口許が緩む。




「……やっぱり……お前のおっぱい美味そうだな。」


「死ね。」







訂正。というか前言撤回。



目の前の変態な恋人に、私の口許は引き攣っていた。

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