第80話

腹が立った。



こんな時に限って、自分の持ってる最大級なイケメン顔を見せるこの男に。


何も言い返せない自分に。


図星を突かれた事に。




全てに、腹が立った。




「まぁでも、あいつは知らなくて正解かもな。」


「え?」


「お前の本性がこんなに格好良いって知ってるのは、俺だけで充分だろ。」




靡く私の髪に指を絡めた男が、あり得ないくらいに綺麗に微笑むものだから、不覚にも息を呑んで見惚れてしまった。



何こいつ。


ムカつく。



自分勝手で、やりたい放題で、適当な奴の癖に、こんな顔見せないでよ。





「私は……私には…夢月だけなの…。」



絞りだした声は情けない程に小さかった。


まるで自分に言い聞かせているような一言に虚しさを覚える。





「好きにしろよ。」




誰に対してでもない言葉だったのにも関わらず、肉欲獣の答えが落ちてきた。




どうしようもなく夢月が好きで。


幼い頃からずっと憧れ続けてきた王子様。



だけどたまに途方もない不安に圧し潰されそうになる。


もしかしたら夢月に振り向いてもらえないんじゃないかって。


夢月が私を鬱陶しがっているんじゃないかって。



考えた所で無駄な事ばかりに落ち込んでしまう。





「お前が息苦しい時は、俺が受け止めてやる。」




随分上からだなおい、そんな事を即座に思ったけれど声には出てこない。



私の頭を撫でる手つきがやけに優しい。





「何であんたがそこまでするのよ。」


「俺はお前に興味がある。」


「……めっちゃ困る。」


「困るな、喜べ。」




あんたの存在がまず私と夢月の中を邪魔してるんだよ気づけよ。


自信満々な表情で、肉欲獣が私を見下ろす。

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