第29話

額に青筋を浮かべる私に対して、「何怒ってるんだよ、マカロン、美味しそうな名前じゃねぇか。」と真剣な顔で言ってくる男。



殴っていい?


殺していい?



「俺の名前は鬼帝 剣きてい つるぎだ。」



しかも聞いてもないのに名乗り始めたんですけど。


あと全然離れる気ないんですけどこの人。





「あのさ。」


「ん。」


「名前教えたんだから離れてもらえますか。」





こんな至近距離で見ても、毛穴一つ見当たらない。


睫毛だって私より長い。



まぁ、断然夢月の方が素敵だけど。


比べるまでもないけど。




「やっぱり無理だわ。」




……は?



くしゃりと顔を歪めた鬼帝が、親指で私の唇をなぞる。



え、気持ち悪い。


瞬時に自分の表情筋が硬直するのが分かった。




「意味わからない事言ってないで早く離し…「キスしてぇ。」」




遮られた言葉。


囁くように落とされたのは、低くて甘い声。





「……。」


「キス、してぇ。」


「え…ちょっと待ってよ。」


「待てねぇ。」




下唇をもう一度、指で撫でられる。


そして近づく男の唇。



ただの肉欲獣じゃんこいつ!!!


嘘つき!離すって言ってた癖に!!!




逃げられない。


身体の自由は全てこの男に奪われている。




「目、閉じてろ。」




命令すんな変態。


互いの唇が重なる直前……。




「真白ー!!!!真白いたら返事して!!!!」





遠くの方から、愛しい王子様の声がした。

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