第27話

まだ少し肌寒いこの季節。


私の顎を掴む男の手は妙に温かい。




「言えよ、お前の名前。知りてぇ。」


「…ねぇ、どんどん近づいてるの気のせい?」


「いや、気のせいじゃねぇ。」


「離れてよ!!!」


「じゃあ教えろよ。名前言わなかったらキスする。」




この性欲魔人が。



愚痴を言っている場合じゃない。


確実に距離を詰めてくる端正な顔。



吐息が頬に掛かって虫唾が走りそうだった。




「や…めてってば…「さっさと吐け。塞ぐぞ。」」




こいつが主導権持ってるの気に喰わないんですけど。


身体を捩ろうとしても、無駄に長身ででかい図体しているせいで見事に固定されてしまっている。




「如月。」


「あ?」


「だから名前、如月。ほら言ったからどいてよ。」



ちゃんと答えてやったというのに、相手の顔は不満そうだった。


こっちはずっと不満しかないけどね。



「…下は?」


「……。」


「下の名前が知りてぇ。」


「ちっ……真白。」


「ふっ、そうか。」




風に吹かれ、私と男の髪が揺れた。


その拍子に目に掛かる前髪を掻き揚げた鬼帝が、小さく笑った。

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