第38話

「…誰だ、お前ら」


低くて、よく通る声。

声が、耳に残る。



思わずボーッとその人を見つめてると、巴衛はその人に声を掛ける。


「アンタこそ誰ー?」


「…お前ら、見たことねぇ顔だな」


「あぁ、来週くらいから此処に転入する予定だからね」


「へぇ。…それなら今後は気をつける事だな。

…屋上は蒼虎以外立ち入り禁止だからな」



屋上の手摺に寄りかかってコチラに話し掛けてくる男の人に、巴衛はベンチに座って答える。



「ふーん?じゃあ、今日だけ許してねー。

私ら、何も知らなかったんだからさ」


「…今日だけ、な。」


「はいはい。美織ーー、こっちおいでーー」


「へっ、ぁ、うん!」



その時、男の人が巴衛に向けていた目が…私と会う。






その時、胸がどくりと鳴る。


何かに囚われたかのように、


音が消えて、動けなくなる。





「…美織ー?」


巴衛に声を掛けられて視線をそちらに向ける。すると、男の人から目が逸れる。



「ぁ、な、なんでもないよ!

…にしても、今日はホントに暑いね~」


「うん。天気予報によると今日は30度超えるみたいだからねぇ~。」


「きゃー、巴衛の言う通り日焼け止めしてきて正解だったよ~」


「まぁねぇ。美織はほっといたらスグ日焼けしちゃうから」



男の人が、気になるけど。…特に見もせず会話もせずに、私は巴衛と話す。

でも、巴衛はちょいちょい男の人にも話題を振ってる。



「あ、そう言えばそこの人ー。名前何?」


「…榊(さかき)」


「んー、榊かぁ。宜しくー」


「…今だけな」




名前、榊君って言うのか…。彼は今だけと言うけれど、私は今を忘れられない気がする。

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