第5話

 粗雑な口付けはあの人と何もかもが違う。乱雑に噛み砕かれた錠剤の欠片は星屑とは程遠く、砂利のような感触がした。喉奥に引っかかって、思わずすべてを吐き出しそうになる。


 詠はそんなあたしを許さない。大きい手を頭の後ろに回してあたしの動きを封じ、不快な感触を奥へ奥へと押し込んだ。



「っ、ん、」



 頭の中がパニックになって、思わず詠の胸を押す。細い見かけとは裏腹に、筋肉質な身体はびくともしなかった。むしろ、逃がさないと言わんばかりに、抱きしめる手を強められる。


 雑だ。あの人だったら、こんなふうにキスをしたりはしないのに。


 彼の唾液に混じった、眠りの魔法薬をむりやり飲み込むと、詠はやっと唇を離した。肩で息をしながら、詠を睨みつける。



「なにこれ。新手の嫌がらせ?」


「お見事」


「女の子に無理やりキスするなんて、最低」


「いいよ。おまえが幸せになるなんて、許さないから」



 だが、詠に何をされようと、あたしは彼に逆らうことができない。あたしは、彼の大切なものを奪ってしまったからだ。


 詠の唇の感触をふいに思い出す。近づいた身体に抑え込まれた頭部。その行為に何も感じないほど擦れているわけじゃないが、あたしと詠の関係は全く甘くない。むしろ、舌が痺れるほどに痛々しくて、苦いものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る