第81話

「時雨早く来て、時雨の脚触りたい!」




目前で道を遮る昴晴先輩の次の言葉を待っている間にも、視聴覚室内から気色の悪い発言が飛び出て来た。


どうやら既に霰先輩が到着しているらしい。



誰が触らせるかと意気込むものの、隙あらば平然と私の脚を撫でそして時には頬擦りもするあの人に、この一ヶ月苦悩させられてきた。


ここへ入学してからというもの、性癖に対する人間の執着の恐ろしさについてのみ、私の脳は学習を積んでいる気がする。こんな学校生活があって良いのか。


市の教育委員会にこの問題を提起したいくらいだ、面倒だからやらないが。





「昴晴先輩、どいて貰えますか中に入れません。」


「うん、それよりもまず時雨ちゃんに訊かないといけない事があるの。」


「え。」




神妙な表情のまま、いつもより雰囲気の違うトーンで言葉を紡いだ相手に、妙な緊張感が私を襲う。



無意識のうちに昴晴先輩の気に入らない事をしてしまったのだろうか。


それとも毎晩星に向けて唱えている呪いが露呈したのだろうか。




いやしかし、どれだけ考えてもこの男が私に対して犯した罪に比べればどれも可愛い物に決まっている。私は無罪だ。何なら被害者だ。




「訊きたい事って何ですか。」




意を決して相手の沈黙を破った私の声が、廊下に響く。


少し思案するような仕草を見せた後、漸く昴晴先輩は口を開いた。

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