第59話

さらば、私の薔薇色の高校生活。


ようこそ、私の地獄の高校生活。




たかだか一歩踏み違えただけなのに、奈落の底へと真っ逆さま。


否、踏み違えた一歩が余りにも大き過ぎたのだ。こんな事になるのならば最初から他人のお世話をするだけの陸上部マネージャーに希望表を叩き付けるべきであった。



してもし切れない後悔が募り募って、チョモランマ。



もっとちゃんと部活や委員会を下調べするべきだった。まさか私の怠惰な生活の皺寄せがこんな形で表れようとは夢にも思うまい。



私のカーストが新幹線のぞみよりも速く底辺へと堕落したけれど、そんな変化は実に小さくて他愛のない物に過ぎなくて、当たり前の様に一限目の教科担任が教室を訪れ、当たり前の様に授業が始まる。




「それでは前回の単元の復習から始めます。」




一斉に教科書を開く音が教室に鳴る。


そうして初めて、私へと向けられていた好奇や嫌悪や奇怪な視線から解放された。




皆が右へ倣えば、自分も零れ落ちぬよう右へ倣う。


皆が左へ倣えば、自分も零れ落ちぬよう左へ倣う。




そんな日本人の性質は、この小さな箱庭にもしかと反映されていた。

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