第1話
「…こいじ…島?」
新妻に聞かれて、そっと刀を拭いていた手を止めた。
「はい。恋の路と書いて…"恋路"です。島津の家中の者由縁の島だとか。今はそう民に呼ばれているそうにございます。侍女たちが申しておりました。もしかしたらご存知かと思いまして…」
——————————恋路島。
考えて、なんだかこっ恥ずかしい島だなと思って再び刀の手入れをしていた手を動かす。
「いったいどこの島だ?そんな名前の着いたのは」
先月祝言を上げたばかりの2つ年上の妻の亀寿がいそいそと酒を持って部屋にやってきて、話しかけてきてくれたのも嬉しい。
笑って聞き返すと、亀寿は静かに答えた。
「肥後の
「…水俣…」
「はい。久保様はご存知ですか?その由縁の者というのは、肥前の龍造寺隆信殿を討った家久叔父上の臣下の者だとか」
その言葉に、まさかと思った瞬間幼い頃の記憶が蘇る。
『————————若。
こんな某のことをお笑いになるかもしれませぬが、若ももう少し大人になられたらいつか…女子を恋しいと思う日が来ます。
そしたら、決して離してはなりませぬよ?』
至って真面目に、だけど柔らかく笑ったあの日の顔を思い出す。
「…まさか…
勢いよく振り返ると驚いた亀寿の顔があって、いけない、とそっと刀を鞘に戻した。
「忠堅…殿…」
「あぁ。
「だっ…た…?」
「…恋路島。まさかそのような名がついてしまうとは…皮肉なものだ」
妻の問いには答えずに、そっと呟く。
「…申し訳ありませぬ。存じ上げず…」
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