第60話 学生奉公とお嬢様

ひとしきり泣いたせいか、落ち着いたようだ。






「ありがとう、蓮伽さん。落ち着いたよ、ありがとう。」




そっと口づけると、はにかんだ。




「........話すよ、僕の事。宿に、帰ろう。

愛おしくて、早く蓮伽さんを腕の中に抱きたい。」




「ふふっ、そんなストレートに(笑)でも、しばらくおあづけ。」




「??どうして?」


「あそこ、見て?何か感じる?」



さっきと同じ場所を指さした。




「あ、あの男女....いつからいるんだろう。」


「私がここに来た時と同じ時くらいから・・・」




向こうも、唇を重ねていた。




「見える、よ(笑)キスしてる。結構、盛り上がっているカンジに見える・・かな。」




そう言って、胸のあたりを触って来た。




「違うわ(笑)そういうんじゃなくて・・・今はダメ。」


「......(恥)お誘いかと思った。」


「......宿に帰ってから.....ね(笑)」


「........そうですね、」


「ふふ(笑)やっぱり、か。」


「やっぱり?何?」




中居さんと話したことを説明した。



実際に、さっきは意識を重ねようと努力してもなかなかだったが

今はすんなり、彼らの姿が見え彼らの会話も聞こえる。



(やっぱり、深澤くんの存在...今なら、意志の疎通ができるかもしれない。)






「深澤くん、少し見守ってて。」






呼吸を深くし、集中した。


すると、彼らの息遣いがわかった。



(いけるかも....)




「あの、、、ごめんなさい。お取込み中....」




すると二人は、こちらを向いた。






————————どうやら、意志の疎通が出来たので話しをしてみる事にした。



『急に申し訳ありません、私の話している事わかりますか?

私は、岩本といいます。』


”わかりますよ、そんなにかしこまらなくとも・・私はあなたなのですから”


『やはり、そうですか。私にはわからないことがたくさんあります。

答えて頂いても良いですか?』


”もちろん、私も聞きたいことがありますので”


『まず、あなたと男性のお名前を聞かせてください。』


”私は、【伽耶かや】と言います、呉服問屋の娘です。

このものは【翔之丞しょうのすけ】と言って、うちで働きながら学校へ行っています。

とても頭が良く、学問所での聴講を許されているものです。”


『そうだったんですね、時代はいつ頃ですか?年はおいくつぐらいなのでしょう。』


”年は、私が22歳で彼が17歳となります。時代?とは?”


『あ、すいません。元号は?』


”(笑)あ、元号ですね。”文化”になります。”




「ぶ、文化?!え、江戸時代!」


深澤くんはびっくりして大きな声を上げた。




『なるほど。あの、ぶしつけですみません、身分違いの恋ですか?』


”・・・そうです。翔之丞の家の身分を父が許さず、引き裂かれてしまった。

翔之丞は将来有能な学者であるし、なによりうちだって名家なんかではないのです。

身分などは愛し合うものの前に必要ないのです。

それなのに、父は許して下さらなかった。”


『最後は、どうなりましたか・・・』


”かけおちをしたのですが.....”


『が?』


”父が翔之丞の実家に手を出し圧力をかけたので、仕方なく戻り、私達は引き裂かれた。

逢瀬を重ねましたが、内通者がいて見つかってしまい二度と会えなくなってしまった”



『苦しいお話ですね、、、、、』



深澤くんは、しゃくり上げて泣いている。

翔之丞さんも、泣いている。



”私、伽耶はその後、親の決めた人と一緒になりましたが流行り病で亡くなり後家になり、

一生を終えました。その後、何回か転生輪廻しましたが、なかなか会えずだったり

結ばれることなく....今世に至ります。”


『そうでしたか・・・わかりました。

本来であれば、生まれ変わった場合、

成仏して体から魂が抜けて外へ出てくることはないと思うのですが

なぜ、あなた方は外に出ているのですか?』


”私達が勝手に出て来たのではなくて、おそらく、あなたが私達を記憶の中から引き出した。

普通の人間なら、それは出来ない。

「あなたが特殊な人間で現世以外の世界と通ずることが出来る種族の人間」だから、

私達が見え、私達と会話し、姿形を具現化出来ているのでは?と考えています。”



私が引き寄せたこと.....。可能性的にはある、か。



『もし、私達が結ばれることがなかったら、あなた方は...』


”.......それは私達にとっては酷な事です。また、来世以降...出会い、思い遂げるまで

この苦しみは終わらない。あなた方に結ばれてもらわないと私達は困るのです。”



『.....伽耶さんと翔之丞さん。心して聞いて下さい。

あなた方が今まで、結ばれることが出来なかった理由があります。

過去、生まれ変わった時に自分達が学び、悟らなければいけないことなどをせずに

そのままその世を終わらせた可能性があります。

翔之丞さんは、カンの良い人と見受けられるので言ってる意味、分かりますよね?』


””.......はい、なんとなく。私達はどの世でも、自分達の事だけしか考えず、

自分達の事だけを考えて、長い間過ごしてきた。ということですね??””


『.....残念ながら、多分そうかと思います。

高次元などの高尚な世界の存在が

あなた方が添い遂げる事を認めていないのです。その感覚が私に伝わってきます。』



”じゃ......どうすれば良いのですか!”





怒りのよどみが伝わって来た。

ものすごいネガティブな空気だ。

周りに広がっていく。




さすがに、深澤くんも気づいたらしい。




「蓮伽さん!大丈夫ですか?」


「ん....ありがと、大丈夫。」



『伽耶さん、どうやらあなたの原因の方が強そうなの。

今世で、あなた達が結ばれるには私達があなた方の分の禊をせねばならなそう。

上の存在達は、私達に判断を任せると伝えてきている。

あなた達も、本当に愛に包まれ思いを遂げるにはどうしたらいいか考えて。』


””蓮伽さん、でしたね。わかりました。

どうやらあなた方に委ねないと私達は何も出来ないのですね、歯がゆいです。””


『違います、あなた達は私達なのです。私達が少しでも穏やかに結ばれるように

導いてください、お願いしますね。』





翔之丞さんのおかげで、伽耶さんは落ち着きを取りもどしていった。





「ふぅ......終わった。」





「......すごいや、蓮伽さん。マジですごい。

あ、疲れたでしょ?飲み物かってくるから座ってて」





深澤くんは急いだ様子で飲み物を探しに行ってしまった。





確かに初めての試みなのでものすごく疲れてしまった。




(早く、宿へ戻りたい、深澤くんが戻ってきたら車に戻ろう)

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