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第19話
残業しながら悶々と考えているのは昼間の給湯室でのこと。
突然の課長からのキスはあまりにも甘美で濃厚で、そして理性も吹き飛ぶくらい妖艶なキスだった。
あんなキスは初めてだ。
優しく甘やかすようでいて、それでいて攻撃的で噛みつくような。
今も思い出すだけで心臓がドキドキと早鐘を打つ。
課長は一体私をどう思っているのだろう。
冷たい態度で突き放すように仕事させるくせに、すごく心配したり。
自分の気持ちも分からないのに、課長の気持ちなんてなおさら分かるわけがない。
あの“俺様”が何を考えているかなんて。
「ふぅ〜…」
7時過ぎに仕事がひと段落したけれど、課長は外出していて帰ってこない。
『今日の夜は空けとけよ』
そう言われたものの、どうしたらいいんだか。
…帰ってもいいのかな?
でも、待ってろなんて言われてないし。
いや、素直に待ってる私もどうかしてる。
よし、帰ろう!
そう思って立ち上がると机の上に置いていた携帯が鳴った。
着信を見ると課長からだ。
「はい、坂井です」
『あぁ、もう帰ったのか?』
「いえ、今から帰るところです」
『そうか、じゃあまっすぐ家に帰れよ』
「は? はい…そうします…」
なにそれ。
待ってませんよ。待ってませんけど、空けとけって言うから残業してたのに。
いや、待ってませんから!
アパートに着いたのは8時過ぎ。
久しぶりの仕事に今日一日の出来事と病み上がりとで、疲労感は半端ない。
けれど、課長とのことを考えるとなぜか胸の奥がキュウっとなって、その度に心臓が波打つ。
だめだめ!
課長はきっとからかってるだけだ。
私の反応を見て仕返しする気なんだわ。
その証拠にすっぽかされたし。
って、待ってないから!
ピンポーン!ピンポンピンポーン!
何度も押されるチャイムの音。
何度も…もしかして……
パタパタと急いでドアを開けると課長が立っていた。
「待たせたな」
目の奥が笑っている。
「え? どうして…ですか?」
「上がるぞ」
そう言って躊躇なく部屋に入ってくる。
「あ、あの!」
部屋に入るなり、ベッド前に置いてあるテーブルにドサっと袋を乗せた課長。
「飯食ってないだろ?これ、超美味いってクチコミにあった特製弁当。食べるだろ?」
「へ?……え?」
なに?
美味しいお弁当があるから今夜空けとけって言ったの?
わざわざ私の部屋に来て?
課長がさっぱり分からない。
私を苛めたいのか優しいのか…どうしたいの?
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