第參章

第94話

綴が加わっただけで、漂っていた空気が日常へと戻るのが分かった。


それに安堵の息を小さく零す。



「お腹空いたね。」


「僕達、綴が起きるの待ってたんだよ。」


「起こせば良かったのに。」


「機嫌悪くなって八つ当たりされるの厭なの。」


「その台詞、そっくりそのまま語に返すよ。」



どっちもどっちだ。会話を耳にしながら胸中で返事をする。


くるりと躰の方向を変え最初に食卓に座った綴が、携帯からブランチの注文を使用人にしている。



てっきり後に続くと思った語だったが、何故か足を動かさないまま手を差し出した。




「ほら早く。」


「え?」



きょとんとしていると、痺れを切らした相手によって強引に手を奪われた。


その癖、腰に絡められた腕の温もりは異常に優しくて私は素直に戸惑った。



「躰辛いって、素直に言ってよ。」


「……ごめん。」


「ありがとうって、言って欲しいの。」




鈍痛で悲鳴を上げる全身を気遣う様にして私を抱き上げた語の表情がよく見えない。


ただ……。






「ありがとう、語。」


「どういたしまして。」



髪から少しだけ出ている相手の耳は、ほんのりと赤く染まっていた。

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