第87話

食卓に準備されたサンドウィッチと、温かそうなココア。


寝癖をくしゃくしゃと掻き乱しながら語が空腹を訴えた事で、すぐさまこの軽食が準備された。



キッチンで吐露していた独り言の件をすっかり忘れた様子の相手に、静かに胸を撫でおろす。




「ちゃんとした食事は綴が起きてからね。」


「うん。」


「あと、今日は大学お休みね。」



淡々と述べられていく決定事項に対し、私はただただ首を縦に振る。


単位を出来る限り取っておきたいけれど、流石にこの躰では一日を乗り切れる自信がない。現に今だって、腰が悲鳴を上げている。




サンドウィッチの盛り付けられた皿を手にしたまま、語が突然私を視線で射った。




「何だかとっても素直なの。こんな夜、少し変。」



首を捻ってそう吐いた男が、次に唇を尖らせて不貞腐れているではないか。



表情筋が引き攣りそうになる。昨日の今日で反抗的な言葉や表情など見せるはずがないと内心思ったからだ。


正面にいるのは虫も殺せぬ様な貌立ちをしていながら、少し従順から逸れた私を「躾」と称して滅茶苦茶にした男。



そんな支配者にこの場で素直にならない人間がいるのなら、是非とも拝見してみたいものだ。




「でも、どんな夜でも僕は大好きなの。」



へにゃり。そんな効果音が付きそうな語の笑みは、砂糖みたいにとことん甘い。

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