第78話

心は厚く雲がかかっていると云うのに、目醒めた先の現実世界は快晴だった。


天気さえ、私の味方になってはくれないらしい。



開けっ放しの遮光カーテン。レースカーテン越しに覗いている晴天に自然と顔を顰めてしまう。


外界から視線を逸らした先にあった天井は、いつもの寝室のそれだった。




「服も着てる。」



最後の記憶では一糸纏わぬ己の醜態しか残っていないのに、パジャマを着せられているだけでなく、一番上の釦まできちんと留められている。



あの地獄も同然な罰が絵空事だったのかと疑う程、全てが何時も通りに戻っていた。




左にある寝貌は綴の物だし、右にある寝貌は語の物。


当然自分の位置は真ん中で、嬉しくない事にしっかり二人の腕が躰に巻き付いている。




「……っっ痛い。」



四本の腕から逃れる為に下半身を捻らせた途端、耐え難い痛みが腰を殴打した。



それは、綴の云うところの「躾」が間違いなく私に施された証だった。


唾を呑み込む度に、咽頭が痛みを訴えている事にも頭が冴えてきて漸く気付く。




そうだ、絵空事であるはずがないのだ。この双子が躾を実行に移さなかった事なんて、今までで一度たりともありやしない。





「痛っ。」



重い鉛を幾つも腰に装着されている感覚にどうにか耐え、私は二人の香りが充満するベッドから逃避した。

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