第76話

これまでに感じた事のない強大な刺激が雷の如く、全身を打ち付けた。



下腹部で確かに捕らえた二つの熱を孕んだ欲望。


それが与える圧迫感と、それすらもあっさりと凌駕する強烈な快感。





「痛っ…ぁああああ…あああああっ!!!!」



唾液を沢山吸ったハンカチ越しに叫んだ私は、無様に受け入れ切れない快感に地面で躰を跳ねさせるだけ。


まるで死ぬのが決定しているのに、楽園だった海から呼吸のできない地上へと打ち上げられた魚みたいだ。



はっきりと保てていたはずの視界が、カメラのフラッシュが焚かれる際の発光に似た得体の知れない眩しい白で埋まっていく。


高い天井が、吊り下がっているシャンデリアが、妖艶な香りを放っているチューベローズが、滲んで濁っておぼろと化す。





「「僕達、一つになったね。」」



蕩け切った彼等の声が、どんどん遠のくのだけが分かった。



このまま、意識を失うのかな。


こんな痴態を晒したまま、後処理も自分で出来ないなんてあんまりだ。




「あれぇ?夜の瞳が虚ろになってる。」


「そりゃあそうだよ、この刺激に最初から耐えられるはずがないもの。」


「ふふふっ、でも、そんな夜も可愛いね。」



でも、もしこのまま死ねたら、この命が尽きてくれたら。


そうなれば人生で初めて、幸福と云う物を感じられるのかもしれない。




「そうだね、だからこそ僕は…。」

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