第69話

相手から告げられた内容を理解するよりも先に、最上階に到着したエレベーターの扉が開く。



「きゃっ。」



その瞬間、首元を掴まれて自分の躰が地面へと叩き付けられた。



鈍痛が走る。


涙が滲むのをぐっと耐えた。



長くて邪魔な髪を耳に掛けようとした手を攫われて、乱雑に仰向けに横臥させられた躰の上に最初に跨ったのは、予想していた通り綴だった。


この二人の為だけに手入れされているチューベローズの花が、季節なんて関係なしに美しく狂い咲いている。




「待って、せめてお家に入ってから…「Ferme ta gueule.」」




ギフトのリボンを解く様な丁寧さで、私のリボンを解いた相手。


シュルリと布が擦れる音と共に、ハラハラと花が生けられている陶器の傍に舞い落ちた。




Ferme ta gueule.(黙れ)


「……。」


「そんな戯言では赦さないからこうして躾をし直すの。」



同い年なのに何が躾だ。


彼等の云う躾は、お行儀が悪いからとか試験で悪い点数を取ったからといった理由で行われるそれとは大きく異なる。




「罪を犯したのは、夜ちゃんだよ。」



これから始まる躾は、ただの罰だ。

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