第63話
「綴ごめんなさ…んぐっ……。」
謝罪をしようとした口許を手で覆われ、誤解を解く唯一の手段を呆気なく奪われた。
怒っている。間違いなく、激昂している。
久し振りにこんなにも怒っている彼を目の当たりにして、脳内は完全にパニックを起こしていた。
「下らない戯言は良いよ、夜ちゃん。」
人目を憚る事なく、廊下のど真ん中で距離を詰める彼の言葉が怯え切った私にトドメを刺す。
「あれ不動君だよね?」
「どっちの方かな、本当に見分け付かないよね。」
「ていうかあの北斗って子、やっぱり不動君の恋人?」
「羨ましいなぁ、北斗さん。」
「でもどっちとも仲良しって可笑しくない?」
「二股じゃない?」
私達の周りを過ぎ去って行く女生徒の呑気な話し声だけが、やけに耳に入ってくる。
何の事情も知らない、少なくとも私より何倍も幸福な生活をお送っているであろう彼女達の言葉に腹が立つ。
羨ましいと想うのなら、今すぐ私と代わってよ。
そうやって噂話を立てる友達がいる貴方が、私は羨ましくて仕方ないよ。
「あははっ。」
その辺を歩いている女生徒に憧れを抱く事さえ。
「この期に及んで他人に意識を向ける暇があるんだね、夜ちゃん。」
酷く憤った綴は赦してくれない。
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