第55話
語の言葉と、悪意に包まれた行動が頭から離れてくれなかった。
どうして彼はあんな事を云ったのだろう。
私から見ても、綴と語は一心同体の様な生活を送っているはずだった。
それなのに、三人だけでマンションに住むスタイルになってから、少しずつ少しずつ綻びが生じてきている気がしてならない。
語だけじゃない。綴だって、確かに語に嘘を付いていたし語の目が行き届いていない所で私に触れる事に「背徳的」だと云って嗤っていた。
彼等の間には、誰にも断ち切る事のできない強くて堅い絆と血の繋がりがあるはずなのに。
今までどんな事があっても異常に見える位に寄り添い合って、お互いがお互いを必要としていたのに。
「目に見えない所で、歯車が狂い始めたみたいで……。」
そこまで漏らし口を噤んだ私は、その先の言葉を声に出すのが怖かった。
「狂い始めたみたいで、厭な感じがする」本当はそう云おうとしていた。
上手に言葉で表せない。だけど、これまでにない違和感がしこりとなって胸に残っている。
兎に角、奇妙な感覚が拭えない。
「酷い顔。」
ハンカチを取り出して、そこに水滴だらけの手を擦り付けながら面を上げた私の暗くて強張った表情が、トイレの鏡には映っていた。
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