第22話

時々思案してしまう。


彼等に出逢わなければ、今もごくごく一般的な家庭で、自由に生きられたんじゃないかと。


もっと早い段階で塵として捨てられていたら、蒸発する前の父親や母親と一緒に過ごせたんじゃないかと。



そうすれば、彼等に塵として捨てられる日が来る事に不安を覚え恐怖しなくてもいい人生があったのかもしれない。


そうすれば、彼等の窮屈な呪縛に蝕まれる事なく、従順する必要もない豊かな人生があったのかもしれない。




そんな不毛な「たられば」を、考えた事がないと云えば嘘になる。


過ぎた時間が戻らないと云う現実は、誰よりも理解しているのに可笑しい話だ。




「夜ちゃん、本当にそう想ってる?」



鋭利な懐疑の視線が、私を射抜く。




「想ってるよ。だって私は、綴と語の物だから。」



間髪入れずに返事をすれば、両者の瞳が恍惚と煌めいた。




彼等にとって、私はきっと愛玩あいがん動物の一種に過ぎないのだろう。


だからこそ私は、主人に厭われない様に媚びへつらわなくてはならない。


せめて大学卒業の肩書を得るまでは、何が何でも厭われてはならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る