第17話

だから私には大学に通って死ぬ気で勉強する理由が大いにある。



何時、どの瞬間に首を切られても良い様に、生きる術をできるだけ多く取得しておかなければならないのだ。


大学卒業と云う肩書は、そんな私にとって酷く魅力的な言葉なのだ。




「夜ちゃん、分かっているの?夜ちゃんの帰るお家は、此処しかないんだよ?」



綴の放った言葉に隠された真意は、「だから僕の機嫌を損なわせないでよ」と云ったところだと思う。




分かってるよ。


わざわざ言葉で紡いで貰わなくても、自分の惨めな立場くらい私が一番よく分かっている。




脅迫めいた言葉を吐く癖に、私の顎を掴んで持ち上げる綴の表情は嬉々としている。


本当に、屈折した最低な性格をしている男だ。



反抗の言葉を呑み込んで、その替わりに奥歯を強く噛んだ。そうでもしないと、本音が零れ落ちてしまいそうだから。




「夜の家族は、僕と綴だけなの。」



二人のお遊戯相手になった時から、変わる事のない口癖を落とした語が私の唇を指先でなぞる。



「そうだよ、夜ちゃんの家族は僕達だけなの。」



続けて綴も、呪縛の言葉を私に唱える。


妖艶な彼等を双眸で捉えながら、私は胸中で呟いた。

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