第3話

同期の安達(あだち)を好きになったのは、三年前の同期会の飲みの席。

入社後のオリエンテーションで知っていたけれど、ゆっくり話したことはなかった。



隣に座った安達は黒縁眼鏡をかけて髪もすっきり整えられ、たれ目で優しく笑う雰囲気が弟のようで庇護欲をくすぐられるタイプだな、なんて姉目線で見ていた。



向かいに座る友人と話が弾んで盛り上がっている最中、無意識のうちに肘にグラスが当たり、倒れたお酒が隣に座っていた安達のスーツに全て零れてしまった。



「あっ! ごめんなさい!」


「あ~大丈夫。結城さんこそかかってない?」


「私は全然っ。それより……」



スラックスには大きく染み込んだお酒と床に滴り落ちる水滴で大惨事。

急いで二人で廊下に出て、おしぼりや店員に借りたタオルで拭いたけれどすぐに乾くわけもなく、ひたすら謝った。



それなのに怒ることもなく



「ちょうどこのスーツ洗おうと思ってたんだ。それより結城さんが濡れなくてよかったよ」



眼鏡越しに優しい笑みを浮かべ、自分のことを差し置いてまで私を気遣ってくれたのが嬉しくて、ドキドキして、それがきっかけで恋に落ちた。



そしてチャンスとばかりに、ことあるごとに安達に話しかけてはお詫びと称して差し入れをしたり、飲みに誘った。

自分でも分かりやすいと思うほど、安達の目に入るために頑張った。



それなのに、安達にはいつのまにか好きな人が現れ、あろうことか付き合うことになったと同期会の皆んなの前で律儀に報告していた。

同期たちはそれを肴に盛り上がる。



私はひとりどん底へ……。



みんなが盛り上がる席で泣くに泣けず、お手洗いに立つふりをして廊下の隅で密かに泣いていたところへ、たまたま通った羽村に泣き顔を見られ、安達への思いを気づかれてしまった。

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