第91話

ガチャリと音を立てて開いた玄関の扉。




「こんにちは、日鞠。」




そこには本当にひー君が立っていた。




「ひー君こんにち…きゃっ…。」




挨拶をし終わる前に強引に身体を引き寄せられ、全身が甘く香る。



玄関先でも平然と大胆な行為をするひー君に、ご近所の誰かに見られているんじゃないかと恥ずかしくなる。




「日鞠、会いたかった。」




こちらの感情などお構いなしの彼は、私の髪を指先で絡めながら艶笑を浮かべる。



その姿はやはり王子様さながらで、影十が言っていたように「残酷な事」をするようには見えない。



欠片すら彼からは感じられない。



やはり影十の単なる杞憂なのではないだろうかと思う。





「何処にも出てないよね?僕以外の人間にこの可愛い姿を見せてないよね?」


「外には一歩も出てないよ。」




私の返事に、分かりやすく安堵の息が相手から零される。




「それよりひー君どうしてここに?今日は用事があるって言ってたでしょう?」


「ああ、すぐに終わらせてきたよ。日鞠との時間を割かれただけでも腹立たしいけれど、結構しぶとくてね。」


「しぶとい?用事って何だったの?」


「ふふっ、知りたい?」




妖しく嗤う彼に、首を縦に振った。




「害虫駆除だよ。」





私の頬に触れたひー君の手は、異常に冷たかった。

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