第36話

折角二人でいるのに、そんなくだらない話はやめようよ。




二杯目の紅茶を注ぎながら、ひー君は私にそう言った。




「それに。」



ここで話は収束するのかと踏んでいた私の予想を裏切った言葉が、彼の口から零れた。



ティーカップをテーブルに置き、ひー君が立ち上がる。





「まさか日鞠は、僕以外の人間を見るつもりなの?」


「え?」


「僕は友達なんていらない、ずっとずっと日鞠だけの世界が良いのに、日鞠は僕なんて放っておいて何処かに行ってしまうの?」


「ち、違うよ。」


「違わないよ、日鞠が言っている事はそういう事じゃない。友達を作るっていう事は、僕以外の人間を見るって事だよ。」


「ひー君、ちょっと落ち着いて。」




責めるような言葉を次から次へと放つひー君が、背後から私の身体を抱き締めた。





「落ち着いていられないよ。だって、日鞠が僕を捨てようとしているんだもの。」


「そういうつもりじゃないよ。」




ただ、友達が欲しいだけなのに。


どうしても、それが彼には伝わってくれないらしい。




「離さない。日鞠はずっとずっと僕だけの物だ…。」


「ひー君……。」




私の髪に顔を埋めて、珍しく弱弱しい声を絞り出す彼に胸が痛くなった。



悲しませたい訳じゃないのに。



彼が悲しむくらいなら、私、友達なんていらない。




「ごめんなさいひー君、私にもひー君だけだよ。」


「…本当?」


「勿論。」


「ふふっ、嬉しい。良かった、また教育し直さないといけないのかと思ったよ。」


「教育?」


「日鞠は知らなくても良い事だよ。」




表情に笑顔を戻したひー君は、ぽかんとする私の首筋をそっと撫でた。

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