第34話

そういうものなのかな。


ひー君がいれば、友達という存在は必要じゃないのかな。




当然とでも言うような口ぶりのひー君に、戸惑いが生まれる。




「でも、ひー君は沢山お友達がいるもん。私だって欲しいよ。」





昔から人気者で、何をしなくとも常に人が周りに集まって来てくれるひー君にしてみれば、私の悩みなんてとても小さいのかもしれない。




「友達?そんなのいないよ。」




自嘲的な笑みを落とした私は、予想もしていなかった返事に目を見開いた。




「え?」


「日鞠は可笑しいね。僕には友達なんていないよ、僕には日鞠だけだよ。」




何を言ってるの?


そう言ってクスリと笑いながら、スコーンにたっぷりジャムを載せた彼は、冗談を言っているようにはとても見えない。




「でも、ひー君の周りにいつも沢山人がいるでしょう?」




皆が楽しそうにひー君に話し掛けてる姿を何度も見た事がある。


ああいうのを、友達だと言うんじゃないのかな。




「ああ、確かに周りは常に雑音に溢れてて迷惑だよ。」


「……。」


「勝手に話し掛けてくるから本当に鬱陶しいんだ。僕は誰一人の顔も見ていなければ、名前と顔の一致さえしないというのにね。」




口許に付いたジャムを真っ赤な舌で舐め取ったひー君から、私は目を逸らすことができない。




「それじゃあひー君は、皆に話し掛けられている時、何を見ているの?」




スコーンを咀嚼していたひー君の喉が、ゴクンと上下に動いた。

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