第8話

苦痛からか、目から溢れた涙が私の頬に落ちる。




「ああ、たまらない。可愛い。」


「ゲホッゲホッ…。」




ここで漸く苦しみから解放され、反射的に咽る私は咳を繰り返しながら酸素を体内に取り込む。


そんな私の背中をよしよしと撫でながら、片手で強引に頬を挟んで持ち上げたひー君は、花が咲いたように顔を崩した。




「日鞠の事を理解しているのは僕だけだよ。」


「…うん。」



知ってる。


私を分かってくれるのはひー君だけ。


そう教えてくれたのはひー君だ。




「来週から高校生だけど、僕の言いつけ、守れるね?」


「うん。」


「いい子。」



私の頬に落ちた涙が、熱い舌によって舐められる。




「日鞠は涙も美味しいね。」


「……ひー君くすぐったいよ。」


「ふふっ、日鞠の事食べたくなってきた。」


「え…駄目だよ下にママ達が…んんっ…んっ…。」




強引に奪われた唇は、自然と侵入を試みる彼の舌を受け入れる。



教えられたから。



こういう時は、口を開いて受け入れるんだって。


そうしたら、ひー君はいつも喜んでくれるから。




ぐちゃぐちゃに口内を掻き乱され、混じりあった互いの唾液が一本の糸になり僅かに離れた唇を繋ぐ。





「やっぱり美味しいね、日鞠は。」




艶笑を湛えたひー君は、教会に描かれている天使のように儚くて、それでいて美しい。



彼の名前は久遠 氷雨くおん ひさめ

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